膝栗毛発端叙
春の日の長旅も、馬士唄の竹に、雀色時の泊には、奇妙希代の滑稽を吐て、衆人の腮顔に釣匙を掛させ、彼佐々木梶原が、生唼磨墨より、遥に勝り、千里の駿足も及ばざる膝栗毛と題せし、その
発端の書を閲して、感称の余り、跋文を乞ふて、智嚢の傷れるほど、底を無性と拂きしに、原来三文の貯は偖おき、一文不智の僕なれば、諺にいふ、蟷螂が斧、猿猴が月、されども犢[驥]尾蒼蠅の譬のごとく、此ひざくり毛の
尻尾に執付、唯意気なりを、ひつかく事しかり。
小舶街
旭亭一桃