親方のうちの引負、十五両なくては償れぬといつたは、引負ではなくて、この女を片付代の十五両か。」 北八「さやう/\。」 弥次郎「ヱヽおきやァがれ、このべらぼうやろうめ。よくおれをとんだめに、あはせやァがつた。」 北八「ナニとんだめにあふものか。かねさへかゝらねへけりやァ、いゝじやァねへかへ。」 弥次「いゝとはなんのことだ。コレ其金ゆへに、おらァ女房をさらけ出してしまつて、今夜からひとりで寝にやァならねへは。」 北八「そのかはりまた、若い女房をゆづつたから、申分はあるめへ。」 弥次「たはごとつくしやァがれ。
あの女のつらが、ふた目とも見られるつらか。いめへましゐやろうめだ。」【ト、まつくろになつてはらをたて、ひとつふたついひつのりて、弥次郎こらへず北八にぶつてかゝる。きた八もやつきとなつてからかつてゐるうち、おつぼはしきりに、むしがかぶると見へ、ウン/\うなつてくるしがるをもかまわず、こなたにはやみくもと、つかみあふてゐるうち夜あけて、なかう人のいも七、しやうばいものゝかひ出しにゆくとて、こゝのうちへをとづれたるが、何やらうちには、ばつたくさをとして、女のうめくこへもきこゆるにぞ。いも七これはと、そとより戸をあけんとするにあかず。たゝいてもあけざれば、やにはに、そとよりひつぱづしてはいると、弥次郎見るより】 弥次「ヤアいも七か。よくも/\、このやろうめと馴合て、おれをはめたな/\、合点しねへぞ、すまねへぞ/\。」 いも七「ナニ、はめたとは何のことだ。」 弥次「なんの事だもすさまじゐ。ふてへやつらだ。」【ト、又いも七にとつてかゝると、いも七はら