お江戸のベストセラー

東海道中膝栗毛発端とうかいどうちゅうひざくりげのはじまり

原文

東海道中膝栗毛発端 原文19

たら、あしたの昼時分ひるじぶん隠居いんきよのほうからくるはづに間違まちがひはないといふことだ。ソリヤア請合うけあい。きづけへなしに、今夜こんやはしつかりたのしみなせへ。」【ト、弥次郎がせなかをひとつくらわせて出てゆく。弥次郎かどぐちをしめて】 弥次コリヤアさむくなつた。時に茶漬ちやづけでもくはねへか。」 おつぼイヽヱよろしうござります。」 弥次「そんなら、もふねよふか。」 おつぼ「おとこをとりませう。」 弥次ヲイ/\おれが出してやろう。」【ト、戸だなより、やぶれぶとんにかいまきなど、とりいだす所に、おもての戸をトン/\/\】 弥次ヱヽ今頃いまごろにだれだ/\。」【ト、いひつゝも、さては今おひ出した女ぼう、このことをかぎつけてや、ふりこんできたるならんか。たゞしはおやぶん、いさくさをいひに来たか。何にもせよ、見つけられてはめんどうなりと、今の女ぼうにむかひ小ごへにて】 弥次コレ/\ひよんなことがある。

長屋ながやの作法で、長屋のものがよめをとると、長屋ぢうものが来て、其嫁のしりをさすつてみるが定法ぢやうほう。今そなたの来たことを、どふしてしつてやら、それでさすりに来おつたにちがひはない。そなたは懐妊くわいにんのよし。おなじくは、まだ今宵こよひは来ませぬといつて、見せたくねへが、どふであろう。」 おつぼヲヤ/\わたしはいやだのふ。ことにたゞの身ではなし。しらないお人に、このおゐどをなでさせる事はいやだねへ。」 弥次「そんならどこぞへかくしてへものだが、此通二階にかいはなし。ヲツトあるぞ/\、窮屈きうくつながら、