お江戸のベストセラー

東海道中膝栗毛発端とうかいどうちゅうひざくりげのはじまり

原文

東海道中膝栗毛発端 原文20

ちつとの間、こゝへ/\。」【ト、売のこしのあき半櫃はんびつあるをさいわい、ふたをあけて、かのおつぼをいれ、もとのごとくふたしておき、やがておもてのかけがねをはづし戸をあくれば、あんにさうゐして喜多八せきこんでとびこめば】 弥次ヤア喜多八か。ヱヽ時分じぶんにどふして来た。」 北八イヤもふ/\、内に落着をちついてゐられやせぬ。此間からおめへにたのんだ十五両の金の事。翌日あすは、たなおろしにかゝるゆへ、ぜひ/\、あすのあさまで、わつちがつかこんあなうめておかねばなりやせぬ。それが出来できねへと、たちまち百日の説法せつぽうひとつ。おめへのいふには、随分ずいぶん心当こころあたりがるから、讃談さんだんしてやろうといひなさつたによつて、じつとまつ

ゐたが、今もつてさたがないから、あんまりづけへさに、寝所ねどころからそつとぬけて来やしたが、いよ/\そのかねは出来できやせうかね。」 弥次「しれた事よ。あしたのひるまでには、きつと出かしてやる。そこへいつちやァをとこだ。なんぼこんなに、しみつたれなくらしでても、さあといへば、拾両や十五両の目くさりがね、工面せうといつたがせうがにやァ。ちげへはねへから、落着をちついさつし。」 北八「そいつはありがてへ。其かわり百倍ひやくばいにして此おんけへしやす。此間からいふとをり、番頭ばんとうはなくなる、