ちつとの間、こゝへ/\。」【ト、売のこしのあき半櫃あるをさいわい、ふたをあけて、かのおつぼをいれ、もとのごとくふたしておき、やがておもてのかけがねをはづし戸をあくれば、あんにさうゐして喜多八せきこんでとびこめば】 弥次「ヤア喜多八か。ヱヽ今時分にどふして来た。」 北八「イヤもふ/\、内に落着てゐられやせぬ。此間からおめへに頼んだ十五両の金の事。翌日は、店おろしにかゝるゆへ、ぜひ/\、あすの朝まで、わつちが遣ひ込だ穴を埋ておかねばなりやせぬ。それが出来ねへと、忽百日の説法、屁ひとつ。おめへのいふには、随分心当りがるから、讃談してやろうといひなさつたによつて、じつと待て
ゐたが、今もつてさたがないから、あんまり気づけへさに、寝所からそつとぬけて来やしたが、いよ/\そのかねは出来やせうかね。」 弥次「しれた事よ。あしたの昼までには、きつと出かしてやる。そこへいつちやァ男だ。なんぼこんなに、しみつたれなくらしで居ても、さあといへば、拾両や十五両の目くさりがね、工面せうといつたがせうがにやァ。ちげへはねへから、落着て居さつし。」 北八「そいつはありがてへ。其かわり百倍にして此恩を返しやす。此間からいふとをり、番頭はなくなる、