しろ、けふは内が取込でゐるから、又そのうちに。」【ト、あいさつそこ/\にして、与九八は出てゆくと、引ちがへていも七立かへり】 「サア/\親元へはしらせて来たが、是から買ものをせずはなるめへ。」 北八「御苦労/\。迚ものことに、わつちといつしよに来てくんねへ。」【ト、弥次郎へわたした二歩をとつて、いも七をひきつれ、はやおけその外の入用のしなをとゝのへてくると】 弥次「ヲヤ手めへ気のきかねへ。序に酒もかつてくればいゝ。」 北八「それをぬかるものか。」【ト、はやおけの中から一升とくりに、まぐろのさしみをとりいだし、まづのみかけてゐる所へ、あひながやのものも、だん/\大さかもりとなり、酒もあとからかひたして、のこらずなまゑひとなり、まきしたにて】 いも七「サア/\この元気で佛を桶へさらけこんでしまをふ。時に寺はどこだ。」 弥次「馬鹿ァ
いへ。おいらが内に寺があつてたまるものか。」 北八「そいつはつまらねへ。」 弥次「かまうこたァねへ、なんでも持出しさへすりやァ、どこかしら寺があるだろう。」 北八「それだとつて、葬礼をかついで、寺町を呼はつてあるひたとつて、かいてはあるめへ。」 いも七「イヤ、それもおもしろかろう。わしは寺町へばかりあきなひにゆくが、呼よふが町とはちがひやす。マア今頃のしろものなら、死んでいこ/\、ゆうれんそうや、ばけぎや/\。卒都婆の干物に石塔のたちうりなぞは、よく売るから、葬礼も買手がありま