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東海道中膝栗毛発端とうかいどうちゅうひざくりげのはじまり

原文

東海道中膝栗毛発端 原文27

しろ、けふは内が取込とりこみでゐるから、又そのうちに。」【ト、あいさつそこ/\にして、与九八は出てゆくと、引ちがへていも七立かへり】 「サア/\親元へはしらせて来たが、是からかひものをせずはなるめへ。」 北八「御苦労くろう/\。とてものことに、わつちといつしよに来てくんねへ。」【ト、弥次郎へわたした二歩をとつて、いも七をひきつれ、はやおけその外の入用のしなをとゝのへてくると】 弥次ヲヤ手めへ気のきかねへ。ついでに酒もかつてくればいゝ。」 北八「それをぬかるものか。」【ト、はやおけの中から一升とくりに、まぐろのさしみをとりいだし、まづのみかけてゐる所へ、あひながやのものも、だん/\大さかもりとなり、酒もあとからかひたして、のこらずなまゑひとなり、まきしたにて】 いも七サア/\この元気げんきほとけおけへさらけこんでしまをふ。時にてらはどこだ。」 弥次馬鹿ばか

いへ。おいらが内に寺があつてたまるものか。」 北八「そいつはつまらねへ。」 弥次「かまうこたァねへ、なんでも持出もちだしさへすりやァ、どこかしら寺があるだろう。」 北八「それだとつて、葬礼そうれいをかついで、寺町てらまちよばはつてあるひたとつて、かいてはあるめへ。」 いも七「イヤ、それもおもしろかろう。わしは寺町へばかりあきなひにゆくが、よびよふがまちとはちがひやす。マア今頃のしろものなら、死んでいこ新大根/\、ゆうれんそう菠薐草や、ばけぎ分葱や/\。卒都婆そとば干物ひもの石塔せきとうのたちうりなぞは、よくうれるから、葬礼そうれい買手かいてがありま