縄をかゝれ。国元へひいていかずに。」【ト、くわいちうより、はやなわを取いだし立かゝれば、弥次郎やつきとして】 弥次「ナニ縄をかゝれたァどふいふ理屈。わつちが女房をもちやァ、縄をかゝらにやァなりやせんかへ、とほうもねへ。モシヱ鯵切を二本さしなさつたとつて、それが恐しゐものでもござりやせんわな。」 兵五「イヤお身、がゐにかさ高にお出やるな。コリヤよく聞け。今度いんもふとをめしつれたは、家老中の指図に依て罷越たぞ。其訳といふは、相役の横須賀利金太かたより、此いんもふとを婦
妻に貰ひたきよし媒をもつて申こした。身にとつては過分の聟ゆへ、早速に同心して結納まで受おさめた所に、いんもふとめは一筋に、こなたと夫婦の契約をした上は、たとへ親兄弟の指図でも、ほかへ縁につかずこたァいやだといふ。身ども魂消まいものか。アゝせず事がないと、それから其利金太かたへ使をつかはし、弥次郎兵衛と申すものと妹めが密通をいたせしこと、神もつて存ぜず。それゆへ結納も受納