お江戸のベストセラー

東海道中膝栗毛発端とうかいどうちゅうひざくりげのはじまり

原文

東海道中膝栗毛発端 原文12

なはをかゝれ。国元くにもとへひいていかずに。」【ト、くわいちうより、はやなわを取いだし立かゝれば、弥次郎やつきとして】 弥次ナニ縄をかゝれたァどふいふ理屈りくつ。わつちが女房をもちやァ、縄をかゝらにやァなりやせんかへ、とほうもねへ。モシヱ鯵切あぢきりを二本さしなさつたとつて、それがおそろしゐものでもござりやせんわな。」 兵五イヤお身、がゐにかさだかにお出やるな。コリヤよく聞け。今度こんどいんもふとをめしつれたは、家老中からうぢう指図さしづよつ罷越まかりこしたぞ。其訳そのわけといふは、相役あいやく横須賀よこすか利金太りきんだかたより、此いんもふとを

さいもらひたきよしなかだちをもつて申こした。身にとつては過分くはぶんむこゆへ、早速さつそく同心どうしんして結納ゆいのふまでうけおさめた所に、いんもふとめは一筋ひとすじに、こなたと夫婦ふうふ契約けいやくをした上は、たとへ親兄弟おやけうだい指図さしづでも、ほかへえんにつかずこたァいやだといふ。身ども魂消たまげまいものか。アゝせず事がないと、それから其利金太りきんだかたへ使つかひをつかはし、弥次郎兵衛と申すものといんもふとめが密通みつつうをいたせしこと、しんもつてぞんぜず。それゆへ結納たのみ受納じゆのう