女房にもたれるものか。しかたがねへ、どふとも御勝手になせへまし。」【ト、かくごして両手をうしろへまはせば、兵五左衛門たちかゝり、すでに弥次郎をいましめんとするを、女ぼうおふつすがり付】 おふつ「モシ/\段々の様子を承りますれば、御尤な事。去ながら、現在夫が縄めにかゝり、永の道中に恥をさらし、お国でもしも命に拘ることやなどあつては、わたしの悲しさ。モシ今おまへのいひなさるには、たとへ此身はどふなつても、艱難辛抱した女房はすてられぬといひなさつたが、わたしには千倍。もふなんにもいひませぬ。
わたしには暇を下さりませ。あの妹御は駿河からの馴染とあらば、わたしよりはさきの事。添ふとおつしやるも無理ではない。サア斯わけていふうへに、暇をもくれず、お侍さまの手にかゝる了簡なら、まづわたしからさきへ死ます。」【ト、なく/\、ながしもとのほうてうをとつてひねくりまはすを、弥次郎おさへて】 弥次「コリヤ/\何をする馬鹿ものめが。」 おふつ「イヱ/\それでも。」 弥次「ハテさて、それほどに思ひ詰た事ならしかたがねへ。ちつとの間、暇をとつて親分の所へでもいつてゐてくれ。大事の女房を今さらふな