お江戸のベストセラー

東海道中膝栗毛発端とうかいどうちゅうひざくりげのはじまり

原文

東海道中膝栗毛発端 原文11

ひげだらけで、胸先むなさきからはらぢうにたむしがべつとりで、あし年中ねんぢう雁瘡がんがさでざら/\して、イヤまたた時寝息ねいきくさい男。」 弥次ヤイ/\/\こいつめが、亭主ていしゆ羅利らり骨灰こつぱいにしやァがる。」 おふつヲホヽヽヽそれでも男といふものは、すたらねへもので、女とさへいやァ、眼一がんちでも鼻欠はなつかけでも、ただはとをさぬ気性きしやう。さだめし念比ねんごろしられた人も邂逅たまさかにはありましたろうが、あんまりこのもしい男でもござりませんから、おまへさんがたのやうにあとおつて来た人は

ひつとりもござりません。このせまいうちに、女房がふたり三人あつたら、大家から根太ねだがたまらねへたなあけろと追出おひだされるでござりませう。人のしらねへうちに、はやくつれておかへりなされませ。」 兵五ヱレハイ最前さいぜんから、つべらこべらと此女中よくしやべるが、其方はまづなにものだい。」 おふつアイわたしかへ、弥次郎兵衛の女房でござります。」 兵五アニ女房だい、見たくでもないヤア。これ弥次郎兵衛、お身女房をもつたか。ヱレ/\是非ぜひおよばない、