コリヤア首がねへ。弥次さん、おめへどふした。」 弥次「ナニおいらがしるものか。そこらにやァ、おちてはねへかへ。」 親「ヤレハア此衆はとんだ「人達だ。サアうらが娘はどうさつせへた。しんだのなんのと嘘ばつかしつかつしやる。サア娘を爰へ出しなさろ。」 弥次「出せとつて外にやァねへ。とほうもねへおやぢめだ。」 親「コリヤア、ハアすまない/\。」 北八「なる程、とつさんのいふのは尤だ。何にしろ首がなくちやァ、つまらねへ。」 親「インネ/\田舎もんでこそあれ、うら頭百姓もしたもんだ。お家主どのへことわつて、ゑずい目にあわせてくれ
べい。」【ト、だん/\こはだかになり、やかましくいふゆへ、そばにゐあわせしひと/\いろ/\なだめてもいつこうきゝいれず。大やさまがこのやうすを、いさいにきいてかけつけ】 大や「さて/\、今聞ましたが、大変なことでござる。何にいたせ、しんだものゝ首のないといふは。」【ト、はやおけのうちをのぞき見て】 「イヤ/\おやぢどの、きづかいさつしやるな。首はあります。」 親「あるとは、どこにあります。」 大や「コリヤア佛を逆さまに入れたのでござる。ハヽヽヽヽ。」 親「ハアそれで落着ました。コリヤどなたも御太儀でござる。」【ト、これより夜にいりて、そうれいをなしあと、ねんごろにとぶらひけるが、さてしも北八は、せつかくしんぼうせしおやかたの内を出されて、又弥次郎のかたに居そうろうとなり、たがひにつまらぬ身のうへにあきはて、いつそのこと、まんなをしにふたりづれで出かけまいかとのそうだんが、