しねへが、ちよつと爪でもとつておこう。」 いも七「ナニ埓もねへ。そんなことはしねへでもいゝじやァねへか。」 弥次「イヤそれでも、拾本みんなとらずとも、せめて弐本の爪ばかりは。」 いも七「ハヽヽヽおきやァがれ、大わらひだ。」【ト、此内、にはかにそこいらとりかたづけるやら、火ばちにけしずみをおこしかけ、ねづみいらずから五合とくりをとりいだし、まづまちうけにしらふではおかしいと三人はなつきあわせ、のみかけてゐる折から、おもてぐちにいきづえのをと、カツチ/\】 いも七「ヲヤもふ来たそふな。」【ト、かどの戸をそつとあけてとんで出】「ヲツトここだ/\、駕の衆、御大義/\。コレいつぱいのんでござれ。」【ト、あり合のはした銭をやつて、かごのものをさつそく追かへし、のつて来たおんなの手をとつて、ともなひはいり】 いも七「サア嫁御のお出だ、お盃/\。」 弥次「コレハいかいおせわ。」 いも七「サアお壺さん、そけへ
すはりなせへ。そこでおめへからひとつのんで、御亭主へさしなせへ。お蛸お酌/\。コリヤア四海浪しづかにといひてへが、謡はしらず。あした来て潮来でもやらかしませう。」【ト、此内、だん/\さかづきもすゝみ夜もふけたるに】 おたこ「いも七さん、わつちらァもふ、おひらきにいたしやせう。」 いも七「ソレ/\此せまいうちに長居はおそれだ。コレおつぼさん、今夜はゆるりと休なせへ。又あしたお目にかゝろう。」【ト、いとまごいし、おたこもろ共立出れば、弥次郎おくるふりして、おもてにたちいで】 弥次「コレいも七。持参金のさたがないがどふする。」 いも七「そこはぬからねへの。今のさき、駕から出た時そつときい