お江戸のベストセラー

東海道中膝栗毛発端(とうかいどうちゅうひざくりげのはじまり)

原文

東海道中膝栗毛発端 原文18

▼開

しねへが、ちよつと爪(つめ)でもとつておこう。」 いも七「ナニ埓もねへ。そんなことはしねへでもいゝじやァねへか。」 弥次「イヤそれでも、拾本みんなとらずとも、せめて弐本の爪(つめ)ばかりは。」 いも七「ハヽヽヽおきやァがれ、大わらひだ。」【ト、此内、にはかにそこいらとりかたづけるやら、火ばちにけしずみをおこしかけ、ねづみいらずから五合とくりをとりいだし、まづまちうけにしらふではおかしいと三人はなつきあわせ、のみかけてゐる折から、おもてぐちにいきづえのをと、カツチ/\】 いも七「ヲヤもふ来たそふな。」【ト、かどの戸をそつとあけてとんで出】「ヲツトここだ/\、駕(かご)の衆(しゆ)、御大義(ごたいぎ)/\。コレいつぱいのんでござれ。」【ト、あり合のはした銭をやつて、かごのものをさつそく追かへし、のつて来たおんなの手をとつて、ともなひはいり】 いも七「サア嫁御(よめご)のお出だ、お盃(さかづき)/\。」 弥次「コレハいかいおせわ。」 いも七「サアお壺(つぼ)さん、そけへ

すはりなせへ。そこでおめへからひとつのんで、御亭主(ごていしゆ)へさしなせへ。お蛸(たこ)お酌(しやく)/\。コリヤア四海(しかい)浪(なみ)しづかにといひてへが、謡(うたひ)はしらず。あした来て潮来(いたこ)でもやらかしませう。」【ト、此内、だん/\さかづきもすゝみ夜もふけたるに】 おたこ「いも七さん、わつちらァもふ、おひらきにいたしやせう。」 いも七「ソレ/\此せまいうちに長居(ながゐ)はおそれだ。コレおつぼさん、今夜(こんや)はゆるりと休(やすみ)なせへ。又あしたお目にかゝろう。」【ト、いとまごいし、おたこもろ共立出れば、弥次郎おくるふりして、おもてにたちいで】 弥次「コレいも七。持参金(ぢさんきん)のさたがないがどふする。」 いも七「そこはぬからねへの。今のさき、駕(かご)から出た時そつときい