お江戸のベストセラー

東海道中膝栗毛発端とうかいどうちゅうひざくりげのはじまり

原文

東海道中膝栗毛発端 原文18

しねへが、ちよつとつめでもとつておこう。」 いも七ナニ埓もねへ。そんなことはしねへでもいゝじやァねへか。」 弥次イヤそれでも、拾本みんなとらずとも、せめて弐本のつめばかりは。」 いも七ハヽヽヽおきやァがれ、大わらひだ。」【ト、此内、にはかにそこいらとりかたづけるやら、火ばちにけしずみをおこしかけ、ねづみいらずから五合とくりをとりいだし、まづまちうけにしらふではおかしいと三人はなつきあわせ、のみかけてゐる折から、おもてぐちにいきづえのをと、カツチ/\】 いも七ヲヤもふ来たそふな。」【ト、かどの戸をそつとあけてとんで出】ヲツトここだ/\、かごしゆ御大義ごたいぎ/\。コレいつぱいのんでござれ。」【ト、あり合のはした銭をやつて、かごのものをさつそく追かへし、のつて来たおんなの手をとつて、ともなひはいり】 いも七サア嫁御よめごのお出だ、おさかづき/\。」 弥次コレハいかいおせわ。」 いも七サアつぼさん、そけへ

すはりなせへ。そこでおめへからひとつのんで、御亭主ごていしゆへさしなせへ。おたこしやく/\。コリヤア四海しかいなみしづかにといひてへが、うたひはしらず。あした来て潮来いたこでもやらかしませう。」【ト、此内、だん/\さかづきもすゝみ夜もふけたるに】 おたこ「いも七さん、わつちらァもふ、おひらきにいたしやせう。」 いも七ソレ/\此せまいうちに長居ながゐはおそれだ。コレおつぼさん、今夜こんやはゆるりとやすみなせへ。又あしたお目にかゝろう。」【ト、いとまごいし、おたこもろ共立出れば、弥次郎おくるふりして、おもてにたちいで】 弥次コレいも七。持参金ぢさんきんのさたがないがどふする。」 いも七「そこはぬからねへの。今のさき、かごから出た時そつときい