親かたも今にめでたくなりやすから、跡で後家御を手にいれさへすりやァ、すぐにわつちが旦那さま。どふか芝ゐの敵役がいふようなこつたが、是ばつかりは違なし。極々内々の所は、もふ出来かゝつてゐやすから、今が大事の所。爰で十五両のかねがねへと、しくぢつて虻もとらず蜂もとらずだから、どふぞおたのみ申やす。」 弥次「おれも手めへをおもふは、身をおもふだから、其咄のとをりにいきさへすると互の為だ。あすの昼時分には、耳を揃へて十五両、
きつと間にあはせてやるぞ。」【ト、此はなしのうち、はんびつのふたをうちよりおしあけて】 おつぼ「モシ/\どふぞして下さりませ。腹が痛くてどうやら産そふになりました。アヽくるしゐ/\。」【ト、むせうにうめき出せば、弥次郎大きにうろたへ】 弥次「ヱヽそいつはこまつたものだ。コレ/\きた八、手めへ子を産女の手伝をした事はねへか。」 北八「ナニとんだことを。イヤかみさんが、いつのまに孕んだのだ。さつぱりしらなんだ。隣のかみさんでもおこして来て、たのむがいゝ。」 弥次「イヤ/\ちつと訳があつて、隣へもさたなしに、こつそりとやりてへ。マアそこへ湯でもわかしてくれ。」