すると喜多八めが、その後家を請合て手にいれる仕様があるといつたが、なるほどそふいけばあいつめは、おかまをおこすはなしだが、そこではおいらもわりい事はなし。どふぞこゝで、しくじらさねへやうにしてへものだが、しかたがねへ。時に飯にしよう。なんぞ菜はねへか。」 おふつ「さつきのむき身殻汁さ。」 弥次「ナニ抜身がくはれるものか。しかしこいつも、きらずとあればきづけへなしだ。」【ト、此内日もくれたるに、あんどうをともし、弥次郎ちやづけをくひかゝる時、としの頃五十あまりの侍、たびしやうぞくにて】 侍「イヤ卒爾
ながら、駿河の府中からおざつた、弥次郎兵衛殿は爰元でおざるかヤア。」 おふつ「ハイこつちらでござりますが、どつちからお出なさいました。」 侍「イヤハイ気遣ひなものではおざんないヤア。」【ト、三十ちかき女をつれてはいり、こしをかくるを見て、弥次郎きもをつぶし】 弥次「コレハ兵太左衛門さま。妹御をつれて、何として御出府でござります。」 兵五「あんとしてたァ曲がない。このいんもふとめを、きさまの所へ嫁入につれてまいつたのでおざるヤア。斯ばかし申ては、合点がまいるまい。きさま国元にて、これ