お江戸のベストセラー

東海道中膝栗毛発端とうかいどうちゅうひざくりげのはじまり

原文

東海道中膝栗毛発端 原文16

どゝはゆめにもおもはねへ。わかれをするも、みんなおれがわりいからだ。」【ト、さすがの弥次郎も、女ぼうの手まへきのどくさふ。かたかげへまねきて、いろ/\に、だましつ、すかしついひふくめ、すゞりばことりいだし三くだり半をかきてやれば、びんぼう人のきさんじさ、きの身きたまゝ、くしばこにふろしきづゝみひとつ、ひつかゝへて、なみだながら、しほ/\として出てゆくと、兵五ざへもん、大小をとつてほうり出し】 「ヤレ/\重荷おもにをおろした。ナント弥次さん、わしが仕打しうちみやうでありませう。」 弥次駿河するがものゝことばおそれ入さ。田舎いなかさぶらいの出立、いかな後家ごけ質屋しちやへ見せても、百石ひやくこくどりとは直打ねうちする男を棒手振ぼてふりいも七にしておくはおしいもの。それにこのまた、矢場やばのおたこ

田舎娘いなかむすめ身振みぶりみやうであつた。みなおれが自作じさく狂言けうげんで、ふたりをたのんで女房にようぼうにいつぱいくわせ、追出おひだしたも、あの陰気ゐんきものに飽果あきはてたからの事。ひとつにはきうに拾五両といふかねがなければならねへことで、いも七きさまへふつとはなしたら、きさまのいふには、ソリヤさいわゐの事がある、さる所の隠居ゐんきよが、内の腰本こしもとに手をつけはらましたゆへ、むこむすめ手前てまへ、しれぬさきにとて表向おもてむきいとまを出して、うけ人の所へ内證ないしやうあづけておかれたが、どうぞはらぐるめに金