星霜をふりけれども、薯蕷鰻にならず、相替らぬ貧報。されとも屈託せぬ気性にて、殻洒落にしやれちらし、近辺のなまけものどもの遊び所となりて、五合徳利の寝姿ながしもとに絶ず。べこ/\三味線の音、不断味噌桶のふたをあくる間とてはなかりける。【あるじ弥次郎兵衛はるすとみへ、女ぼうおふつ、ながしもとにあすのしかけしていると、うらだなの女ぼうおちよま、ほそおびまへだれにて、たなつちりをふつて、うらぐちよりさしのぞき】 おちよま「モシおかみさんへ、御無心ながら、醤油がすこしあらば、どうぞかしておくんなせへ。ホンニ夕部は、でへぶお賑かでござりやした。
わつちらが所の生酔どのを御覧じやれ、まだけへりやせんわな。此間の晩夜更て、路次の戸をわれるやうにたゝいたとつて、大家さんのおかみさんがあのくちで、ごてへそうに小言をいひなすつたが、わつちらが所の野呂馬どのも、のろまなりやァ、あの又おかみさんも、あんまりじやァござりやせんかへ。ナント店賃の一ねんや二年溜つたとつて、一生やらずにおきやァしめへし、それをやかましくいふくらへなら、溝板の腐つた所も、どうぞするがいゝじやァ
先を行 こころに はねや ほととぎす
桜木亭金丸