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東海道中膝栗毛発端(とうかいどうちゅうひざくりげのはじまり)

原文

東海道中膝栗毛発端 原文06

▼開

星霜(せいそう)をふりけれども、薯蕷(やまのいも)鰻(うなぎ)にならず、相替(あいかは)らぬ貧報(びんぼう)。されとも屈託(くつたく)せぬ気性(きしやう)にて、殻洒落(からじやれ)にしやれちらし、近辺(きんへん)のなまけものどもの遊(あそ)び所となりて、五合(ごがう)徳利(とくり)の寝姿(ねすがた)ながしもとに絶(たへ)ず。べこ/\三味線(さみせん)の音、不断(ふだん)味噌(みそ)桶(おけ)のふたをあくる間(ま)とてはなかりける。【あるじ弥次郎兵衛はるすとみへ、女ぼうおふつ、ながしもとにあすのしかけしていると、うらだなの女ぼうおちよま、ほそおびまへだれにて、たなつちりをふつて、うらぐちよりさしのぞき】 おちよま「モシおかみさんへ、御無心(むしん)ながら、醤油(したぢ)がすこしあらば、どうぞかしておくんなせへ。ホンニ夕部(ゆふべ)は、でへぶ(大分)お賑(にぎや)かでござりやした。

わつちらが所の生酔(なまゑひ)どのを御覧(ごらん)じやれ、まだけへりやせんわな。此間(このあいだ)の晩(ばん)夜更(よふけ)て、路次(ろじ)の戸(と)をわれるやうにたゝいたとつて、大家(おほや)さんのおかみさんがあのくちで、ごてへそうに小言(こゞと)をいひなすつたが、わつちらが所の野呂馬(のろま)どのも、のろまなりやァ、あの又おかみさんも、あんまりじやァござりやせんかへ。ナント店賃(たなちん)の一ねんや二年(ねん)溜(たま)つたとつて、一生(いつせう)やらずにおきやァしめへし、それをやかましくいふくらへなら、溝板(どぶいた)の腐(くさ)つた所も、どうぞするがいゝじやァ

東海道中膝栗毛発端 原文06

先を行 こころに はねや ほととぎす
桜木亭金丸