ねへかへ。そして犬の糞も、てん/\の内の前ばかり浚つて、長屋のものは、なんだとおもつてゐるやら、ノウおくんさん。」【ト、むかふのうちのかゝしゆへ水をむけかけると、あがりくちにかたあしおろして、子どもにちゝをのませてゐる女ぼう、やがておりて出かけ】 おくん「モシナあんまり大きな聲をして、そんなことをいひなさるな。奥のおけんつうが今手水にいつたよ。アノおしやべりも又大家さんのおかみさんへ、いつそ追従ばかりいつて、長屋のことを、どふめへつた、かうめへつたと、いゝ苦労性じやァねへかへ。それに聞なせへ、此間からあそこの内へ来てゐた居候は、
アノかみさんの妹だといふこつたか、ナニあれがお屋しきに奉公してゐたもすさまじゐ。ちよつと見てもしれてありやす。ありやァ、おへねへばんくるわせものだとよ。一昨日もどこか下谷のおやしきへ目見にいくとつて、つくりたつて出ていつたが、ナアニよその隠居さまへ妾にいくので支度金が七両来たとさ。いやじやァねへかへ、あの顔で妾も気がつよい。わつちらもこの額のはげつてうがなくて、耳の際の痰瘤が、もふちつとちいさいと、妾にでも出て支度金