お江戸のベストセラー

東海道中膝栗毛発端とうかいどうちゅうひざくりげのはじまり

原文

東海道中膝栗毛発端 原文07

ねへかへ。そしていぬくそも、てん/\の内のまへばかりさらつて、長屋ながやのものは、なんだとおもつてゐるやら、ノウおくんさん。」【ト、むかふのうちのかゝしゆへ水をむけかけると、あがりくちにかたあしおろして、子どもにちゝをのませてゐる女ぼう、やがておりて出かけ】 おくんモシナあんまり大きなこへをして、そんなことをいひなさるな。おくのおけんつうが今手水てうづにいつたよ。アノおしやべりも又大家おほやさんのおかみさんへ、いつそ追従ついしやうばかりいつて、長屋ながやのことを、どふめへつた、かうめへつたと、いゝ苦労性くらうせうじやァねへかへ。それにきゝなせへ、此間からあそこの内へ来てゐた居候ゐそうろうは、

アノかみさんのいもふとだといふこつたか、ナニあれがお屋しきに奉公ほうこうしてゐたもすさまじゐ。ちよつと見てもしれてありやす。ありやァ、おへねへばんくるわせものだとよ。一昨日おつとゐもどこか下谷したやのおやしきへ目見めみへにいくとつて、つくりたつて出ていつたが、ナアニよその隠居ゐんきよさまへめかけにいくので支度金したくきんが七両来たとさ。いやじやァねへかへ、あのつらめかけがつよい。わつちらもこのひたひのはげつてうがなくて、耳のきは痰瘤たんこぶが、もふちつとちいさいと、妾にでも出て支度金したくきん