とう/\、今朝がた御臨終なされた。」 北八「そふだろうとも。」 与九「それにつゐて、おかみさまがおつしやるには、きた八に暇をくれる、あれは平生心ざしのみだらなもの。旦那殿がしなれたら猶の事、女の主と侮つて、どのやうな不埒をせまいものでもないから、そう/\請人の所へ引わたしてやれとの事。それはと傍から、さま/\取成をいつてみたが、どふでもきさまは、かみさまへ、なんぞいやらしい事でもいつたとみへる。そふかして日頃からいけすかねへ。頬の皮の厚い男。顔を見るもいやだと、
きさまの事をわるくいつて、七里潔敗いやだ/\といつてござるから、しかたがねへ。モシ弥次郎兵衛さまはあなたか。只今お聞きのとをりでござりますから、きた八どのは是でおわたし申ます。」 弥次「承知いたしました。コレきた八、あのとをりだが、それでいゝか。」 北八「イヤもふ、よくてもわるくてもしかたがねへ。しかし其筈ではねへつもりだに。」 弥次「くれ/\もいめへましゐ業さらしな野郎めだ。いつその事、何も角もぶちまけやうか。」 北八「アヽコレ/\誤つた。おがむ/\。」 与九「また折をみて、訴訟のしかたもあろう。なんに