お江戸のベストセラー

東海道中膝栗毛発端とうかいどうちゅうひざくりげのはじまり

原文

東海道中膝栗毛発端 原文13

いたせし所に、いんもふとめは密通みつつうの男ならではそはないと申。しかればいんもふとくびをきつて、こなたへ持参ぢさん仕らふ。それにて御一分ごいちぶんをたてられ、了簡りやうけん頼入たのみいると申つかはせしに、先方せんほうも、諸親類しよしんるいはじめ傍輩ぼうばいどもへかねてこなた妹御いんもふとごさいに申うけはづ吹聴ふいちやうせし上は、世間体せけんていたいし申しわけのない仕合。女のくびひとつうけたとて何のやくにもたゝぬこと。此上は其元とうちはたすより外、分別ふんべつなし。 明晩めうばん安倍あべ河原かはらにおゐて、

勝負しやうぶけつせずとの返事へんじ元来もとより身共も覚悟かくごのまへ、いかにもと挨拶あいさつせし所に家老中からうぢうより双方そうほうをめされ、年来ねんらい主人しゆじんの御知行ちぎやう頂戴てうだいいたし居ながら、わたくし宿意しゆくゐをもつて討果うちはたさんとは、殿とのたいしてだい不忠ふちう。妹があににかくしておつともちしをしらずして、利金太に契約けいやくせしを不届ふとゞきとはいひがたし。いまだ婚礼こんれいもせないうちのこと、たがい一分いちぶんのすたることはないはづ。自今じこん以後いご、両人遺恨ゐこんすて御奉ごほう