お江戸のベストセラー

東海道中膝栗毛発端とうかいどうちゅうひざくりげのはじまり

原文

東海道中膝栗毛発端 原文04

ちらしあるやうにおもわれ、なんでもひとがせぎと心ざして出かけ来るもの、幾千萬いくせんまん数限かずかぎりもなき其中に、生国しやうごく駿州すんしう府中ふちう栃面屋とちめんや弥治郎兵衛やじろべいといふもの、おやだいより相応さうおう商人あきんどにして、百二百の小判こばんには何時でもこまらぬほどの身代しんだいなりしが、 安部川あべかは町の色酒いろざけにはまり、其上そのうへ旅役者たびやくしや華水はなみづ多羅四郎たらしろうかゝへはな之助といへるに打込うちこみ、このみち孝行かう/\ものとて、黄金こがねかまほりいだせし心地こゝちしてよろこび、戯気たはけのありたけをつくし、はては身代しんだい

まで途方とほうもなきあな掘明ほりあけ留度とめどなく、しり仕舞しまひ若衆わかしゆとふたり、しりかけて、府中ふちうの町を欠落かけをちするとて
  借金しやくきん富士ふじの山ほどあるゆへに
  そこで夜逃よにげ駿河するがものかな
かく足久保あしふぼの茶なることをはきちらしやがて江戸にきたり。神田かんだの八丁ぼり新道しんみち小借家こじやく住居すまいし、すこしのたくわへあるにまかせ、江戸前のうを美味うまみ豊嶋としま屋のけん