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東海道中膝栗毛発端(とうかいどうちゅうひざくりげのはじまり)

原文

東海道中膝栗毛発端 原文05

▼開

菱(びし)、明樽(あきだる)はいくつとなく長屋(ながや)の手水桶(てうづおけ)に配(くば)り、終(つひ)に有金(ありがね)を呑(のみ)なくし、是ではすまぬと鼻(はな)之助に元服(げんぷく)させ、喜多(きた)八と名乗(なのら)せ相応(そうおう)の商人(あきんど)かたへ奉公(ほうこう)にやりしが、元来(もとより)さいはじけものにて主人(しゆじん)の気(き)にいり、忽(たちまち)小銭(こぜに)の立ちまはる身分(みぶん)となり、弥次郎は又国元(くにもと)にて習覚(ならひおぼへ)たりしあぶら絵(ゑ)などをかきて、其日ぐらしに舂米(つきごめ)の当座買(とうざかひ)、たゝき納豆(なつとう)あさりのむきみ、居(ゐ)ながら呼込(よびこん)で喰(くつ)てしまへば、びた銭(ぜに)壱文も残(のこ)らぬ身代(しんだい)。田舎(いなか)より着(き)つゞけの

布子(ぬのこ)の袖(そで)、綿(わた)が出ても洗濯(せんたく)の気をつけるものもなく、是はあまりなるくらしと、近所(きんじよ)の削(けづ)り友達(ともだち)が打寄(うちより)て、さるお屋敷(やしき)におすゑ奉公(ぼうこう)勤(つとめ)し女、年(とし)かさなるを媒(なかだち)して弥次郎兵衛にあてがへば、破鍋(われなべ)に綴蓋(とぢぶた)が出来てより、狼(おほかみ)の口あいたやうなふくろびもふさぎてやり、諸事(しよじ)手健(てまめ)に人仕事(ひとしごと)などして弥次郎を大事(だいじ)にかくる様子(やうす)、此女房(にようぼう)の奇特(きとく)なる心ざしに弥次郎夜(よる)もはやく寝(ね)て、随分(ずいぶん)機嫌(きげん)をとりくらしけるが、うか/\としてはや十年(としせ)ばかりの