北八「それは承知だが、なぜまたあんな究屈な所へ、かみさんを入れておゐたのだ。サア/\出なせへ/\。」【ト、はんびつの中から女の手をひつぱりて、ひき出さんとしけるに、おつぼきた八を見て】 おつぼ「ヤアおまへか、嬉しや/\。わしが産月を心元なさに、こゝまで尋ねて来て下さりましたか。」【ト、しがみつくに、きた八はびつくりしたかほ、弥次郎ふしんはれず】 弥次「コリヤ北八、手めへこの女とちかづきか。」 つぼ「ハイわたしは、此きた八さまのござる内に、おまんまたきをいたしておりましたもの。いやだといふを無理無体、きた八さまに口説れまして、ツイ逢ましてかうした身になりましたゆへ、お隙をもらひ
親もとへかへりましても物堅い親。うちへは入れず、北八さまのもらひ分にて親の手前を引きとられ、余所の内に預られておりましたが、此事親かたさまの耳に入らぬうち、わたしに十五両の金をつけて、外へ片付たいとの相談。わたしは迚も斯なるからは、いつまでもはなれぬ気でゐましたけれど、それではあなたのお為になるまいと、得心づくでおもひきり、こゝろにそまぬこゝへ嫁入して来ましたのでござります。」【ト、くるしい中になみだ半分いさいのはなし、弥次郎きもをつぶし】 弥次「ヤア/\そんなら