お江戸のベストセラー

東海道中膝栗毛発端とうかいどうちゅうひざくりげのはじまり

原文

東海道中膝栗毛発端 原文22

北八「それは承知せうちだが、なぜまたあんな究屈きうくつな所へ、かみさんを入れておゐたのだ。サア/\出なせへ/\。」【ト、はんびつの中から女の手をひつぱりて、ひき出さんとしけるに、おつぼきた八を見て】 おつぼヤアおまへか、うれしや/\。わしが産月うみづき心元こゝろもとなさに、こゝまでたづねて来て下さりましたか。」【ト、しがみつくに、きた八はびつくりしたかほ、弥次郎ふしんはれず】 弥次コリヤ北八、手めへこの女とちかづきか。」 つぼハイわたしは、此きた八さまのござる内に、おまんまたきをいたしておりましたもの。いやだといふを無理むり無体むたい、きた八さまに口説くどかれまして、ツイあひましてかうした身になりましたゆへ、おひまをもらひ

おやもとへかへりましても物堅ものがたおや。うちへは入れず、北八さまのもらひ分にて親の手前を引きとられ、余所よその内にあづけられておりましたが、此事親かたさまのみゝに入らぬうち、わたしに十五両の金をつけて、外へ片付かたづけたいとの相談。わたしはとてかうなるからは、いつまでもはなれぬでゐましたけれど、それではあなたのおあめになるまいと、得心とくしんづくでおもひきり、こゝろにそまぬこゝへ嫁入よめいりして来ましたのでござります。」【ト、くるしい中になみだ半分いさいのはなし、弥次郎きもをつぶし】 弥次ヤア/\そんなら