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浄光明寺
浄光明寺▲の境内にある慈恩院には矢拾地蔵が安置されている。網引地蔵▲は境内後ろの山中にあり、藤原為相の塔▲は、さらに登った上にある。
景清の土牢▲は、浄光明寺の先の化粧坂▲の山ぎわにある。
狂歌
あみ引の ぢぞうのまへの ちや屋にきて
あとひきぢざけ のむぞたのしき
網引の地蔵の前の茶屋に来て
後引き地酒飲むぞ楽しき
旅人Ⓐ「なんでも旅先では、えらく銭を取られることがあるから、ウッカリとは飲めん。でも、貴公のおごりなら、ウッカリと飲んでもよい。」
旅人Ⓑ「なに、旅へ出ておごりということがあるか。なんでも割り勘だ。さっきオマエが飲んだ甘酒の八文は、オレが出しておいたから、よこしなさい。」
旅人Ⓐ「オヌシ、きたないことを言う。それを言うなら、昨日の渡し銭の二文をよこさっし、よこさっし!」
旅人Ⓑ「いやいや、あれは雪ノ下の団子の銭四文を差し引けば、ソッチから二文釣りをもらわなきゃならん。だから早く勘定さっし。ソレ、ソレ! 女中が来た。」
旅人Ⓒ「もう一合やりたいが、いっそのこと、一銚子、一銚子。」
新居閻魔
それから姫ヶ谷を過ぎて、新居の閻魔▲にいたる。閻魔さまが口に幼な子の付け紐をくわえているのには、いわれがあること。
海蔵寺▲のご本尊は啼薬師という。むかし、山中で毎夜幼子の泣く声があり、その声のするところからこの薬師を掘り出したという。ここの門前には、底脱ノ井▲と呼ばれる井戸がある。
狂歌
たうとさは たぐひあらゐの ゑんまどう
まいらぬ人も なきやくしなり
尊さは類いあらいの閻魔堂
参らぬ人もなき薬師なり
参詣「もしもし、かみさん。新居の閻魔さまは、ここですかの。閻魔さまは、奥にござりますかえ。」
女「今、奥でうたた寝をしておりました。あそこへ行って鰐口をお叩きなさると、じきに目をお覚しになります。閻魔さまは、とかく鰐口が大好きで、わたしの鰐口を叩いてみたいと、まったくわたしをお放しになりませんから、
『おまえさまには、三途の川のババさまというお妾さんがいるから、その鰐口を叩きなされ。』
と、言いましたら、
『いやもう、あのババのは鰐口ではない。木魚のようにボクボクしていかん。』
と、おっしゃりました。」