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松ヶ岡・甘露の井
松ヶ岡東慶寺▲は、円覚寺▲の南にある。禅宗の尼寺で、開山は北条時宗の妻。秋田城介の娘で潮音院覚山志道禅尼という。第二十世の住職は豊臣秀頼公の息女で、仏殿の後ろにその石塔婆▲がある。
甘露の井▲もこのへんにあり、鎌倉十井のひとつである。
狂歌
常盤なる 松がおかとて あぢはへば
ちとせをのぶる 甘露井もあり
常盤なる松が岡とて味わえば
千歳を延ぶる甘露井もあり
旅人Ⓐ「これは、美しいお比丘尼だ。坊さまにしておくには惜しい。」
旅人Ⓑ「このまえ、わしが奥州へ行ったとき、ある旅籠で飯盛を買おうと言ったら、
『ここには飯盛はござりませんが、比丘尼ならおります。呼んでみませんか。』
と言うから、こいつは珍しい、話のタネだと呼んでみたところが、黒い頭巾をかぶったつまらない顔つきの比丘尼が来た。
『おつとめはいくらだ。』
と聞いたら、
『お布施は三百。』
と言う。木綿の洗いざらしを着ておいて三百とは欲深いと思いながらも寝てみたところが、どうも坊主臭くてイヤだから、すぐに寝たフリをしていると、その比丘尼がコッソリわしの鼻へ手をあてて寝息をうかがう。コイツ、気味の悪い、おかしなことをすると思いながら、いよいよ寝たフリをしていたら、そのうち比丘尼がソッと起きて、あたりを見回しながら頭巾を取って頭をゴシゴシとかき始めた。その頭がイガグリ頭で、さては今まで頭のかゆいのをこらえていたのかと、おかしくなってそのまま寝てしまった。
次の朝、そこを発って先の茶屋で聞いたら、
『あの宿の比丘尼は、麦一升で売ります。』
ということで、三百も取られてとんだ目にあったから、わしはもう比丘尼には、こりごりなのさ。」