お江戸のベストセラー

方言修行むだしゅぎょう 金草鞋かねのわらじ江之島鎌倉廻えのしまかまくらめぐり

4

佐助稲荷・岩屋堂

※本文中のをクリックすると、その場所の写真を表示します。

佐助稲荷さすけいなり岩屋堂いわやどう

それから佐々目ヶ谷ささめがやつを抜けて今小路を行くと、左に天狗堂、右の方にはたつみの荒神がある。さらに進んで勝ノ橋を渡ると、左の方には佐助稲荷の宮、右の方へ行けば岩屋堂松源寺、そして浄光明寺にいたる。浄光明寺は、たいそうな大寺で境内が広く見どころも多い。

狂歌

名どころは きびつの鉄に あらねども
なりひゞきたる かまくらのさと

名所は吉備津の鉄にあらねども
鳴り響きたる釜くらの里

旅人Ⓐ「わしは、このようにみすぼらしい姿をしていますが、これでも仇討ちでござる。わしのかかあを同僚の男が連れて逃げたから、その女敵めがたきを討たねば国へは帰られぬ。それで、このように身をやつして歩いています。
かたきの男は、わしよりよっぽど強い男だから、万一めぐり逢ってわしが返り討ちになってはたまらないので、どうぞ逢いませんようにと、敵は西にいると聞いたから、わしは、わざと東を訪ねて歩き、それでも…どうも心配で…ひょっとして…どういうことで…その敵に逢ったりしないかと不安でしたが、昨日、国の者に会って聞いたら、その男はこのごろ遠くの四日市へ引っ越したらしい。それを聞いて、ようやく心が落ち着きました。」

旅人Ⓑ「そんなら、その男ばかりが四日市へ引っ越して、女はきっと東海道の岡崎にいるな。なぜといえば、きさま、めがたき討ちなら岡崎の女郎に決まってる。
めがたき女郎衆は、よい女郎衆♪』
と言うからな。」

旅人Ⓒ「これはよい日当たりだ、わしもここで日向ぼっこしながらシラミとりをいたそう。」

注釈

佐々目ヶ谷
長谷と佐助の間にある谷。現在の笹目町。
天狗堂
佐助ヶ谷の東の山に、かつてあった愛宕社(天狗堂)。
松源寺
岩屋堂の東側にあった真言宗のお寺。現在は廃寺。
鳴り響きたる釜
吉備津神社の鳴釜神事。
女敵
自分の妻を寝とった男。
岡崎にいる
岡崎宿(愛知県岡崎市)は、東海道の中でも特に大きな遊郭があった宿場。
「東海道を上って四日市へ逃げたなら、かかあは岡崎あたりでとっくに女郎に売られている」というような意味?
めがたき女郎衆は、よい女郎衆
江戸のはやり小唄「岡崎女郎衆、岡崎女郎衆、岡崎女郎衆は、よい女郎衆♪」のもじり。