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瑞泉寺・天台山
大塔宮の土牢▲は二階堂村の山ぎわにある。二階堂には永福寺▲の跡もあり、今はその礎だけが残っている。
瑞泉寺▲は、土牢の東北にあり錦屏山という。本尊は釈尊をお祀りする。一覧亭の跡が庭園の座禅窟▲の上にある。
天台山▲は、一覧亭の向こうの高い山である。
狂歌
見とれつゝ 人はうごかぬ ざぜんくつ
にほんいちらん ていのけしきに
見とれつつ人は動かぬ座禅窟
日本一覧亭の景色に
旅人「さては、ここはむかし、大塔宮さまの土の牢か。こんな所に入ってござって、ご窮屈であったろう。
わしも若いとき、ふとしたことから座敷牢へ入れられたことがあったが、それでも親というものはありがたいもので、
『あれが一人でさみしかろう。』
と、女を一人くれたから、ほかにすることはなし、それから夜昼、子をこしらえることばかりに夢中になって毎年産ませたものだから、子が増えると親父がまた、
『あの子が不憫な、座敷牢が狭かろう。』
と言って、路地の隅に古屋をかけて、みなそこへやられて、そこで子供を育てていたが、だんだん子供が大きくなって、後には路地へ這い出してそこら中へたれるものだから、長屋のやつらが小言を言うには、
『いまいましい。このごろは、ドブ板の上がクソだらけで踏んづけて困る。いっそ、あの子供らを炭俵へでも入れて捨ててしまえ!』
と、ある晩に長屋のヤツが二人、ほっかむりして子供を捨てようとそこらをウロついたものだから、子供たちが見つけて強気に吠えて、
『誰か来たそうな、どろぼうか。』
と、わしが小屋からヌッと出たら、
『そりゃこそ、親犬が提灯持って出て来たわ!』
と、逃げたからおかしかった。」