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若江嶋・若宮

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若江島わかえのしま(和賀江島)由比ゆい若宮わかみや

それから浜に出ると、光明寺、六角の井がある。さらに飯島から小坪道に入ると若江の島が見える。波打ち際にいろいろな形をした岩がたくさん並んでいて面白い。
由比若宮は、むかしこの地にあった鶴岡八幡宮を頼朝公が今のところにうつしなさり、そのあとを若宮としてお祀りしている。きわめて絶景のところである。

狂歌

こゝにきて じゆめうのびたる こゝちせり
いつもわかえの しまのけしきに

ここに来て寿命延びたる心地せり
いつも若江の島の景色に

旅人「モシモシ、ちょっと聞きたい。わしのくせで、美しい娘の給仕でなければ飯が食えぬが、どうだ、このあたりによい娘のいる旅籠はたごがあれば、教えてくだされ。」

村人「美しい娘なら、この先の大きな家へ泊まりなさい。あすこの娘に給仕をさせたら、さぞかし飯が美味く食えましょう。」

旅人「それはうれしいが、その家は旅籠はたごでござるかの。」

村人「いやいや、宿屋ではない。お大尽だいじん(金持ち)の家だから人は泊めまいが、
『行き暮れて難儀しております。どうぞ、泊めてください。』
とたのんだら、もしやお情けで泊めてくれるかもしれん。むしろでも敷いてもらって、娘に給仕させるかわりに娘の食い残しでも貰ってあがりなさい。そのかわり、お情けで銭は取らず、ただで泊めてくれるでしょう。」

旅人「そんなら、ただで泊めてくれるなら銭がかからんから、娘の給仕よりそっちにしよう。」

注釈

若江の島
和賀江島(わかえじま)
材木座海岸にある人口島。鎌倉時代に築かれた現存する最古の港湾施設。江戸時代までは漁船などの係留場として使われていた。
子どもたちが抱えているワンコが、かわいいね。
由比若宮
鶴岡八幡宮の元となった神社で「元八幡」とも呼ばれる。平安時代に源頼義が源氏の氏神である八幡神を京都の石清水八幡宮からこの地に勧請し、その後、鎌倉入りした頼朝が現在の鶴岡八幡宮へ遷座した。