戸塚
去年の『金草鞋』の伊豆観光から引き続き、箱根の七湯めぐりから江ノ島、鎌倉をまわり、長々の道中、無事に心をなぐさめ命の洗濯をして、これから長生きするタネをまき、めでたく江戸への帰り道。
今宵は戸塚の宿の中村屋に泊まり、早くも明日は江戸入り。旅の名ごりあれば、たがいにその身の無事を喜び酒酌みかわして、めでたくこの紀行の筆を止めること、またまた、めでたし、めでたし。
狂歌
達者にて りゝしくかへる あしもとは
これあつらへの 紺のたびなれ
達者にてりりしく帰る足元は
これあつらえの紺の足袋慣れ
作者「女どものたっての願いで、箱根の湯治からのもどりに江ノ島と鎌倉を観光したが、これでなにも言うことはあるまい。そのかわり、誰もがこれからはわしの言うことを何でも聞かねばならぬが、承知であろうの。」
女「あいあい、それはもう、あなたの方からおっしゃる前に、わたくしどもの方から持ちかけましょう。そのかわりに、来年また伊勢参宮から大和めぐりがいたしとうこざります。どうぞ連れて行ってくださりませ。」
作者「それは、この『金草鞋』に伊勢参宮はあったが、まだ大和めぐりや播州めぐりはない。それに、西国も長崎まで大阪から船路はあったが陸路がないから、おいおい書くであろう。」
幇間「旦那のおなごは、申しつけておきました。」