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丸山稲荷
十二院▲は、鶴岡八幡宮の西にある僧舎で、むかしは二十五院あったという。この中の荘厳院の後ろの山を狻踞峰という。山亭があり、ここから見わたす眺めがよい。
この近くに丸山稲荷の宮▲があるが、ここも景色のよいところである。
狂歌
みな人へ りせうをてらし 給ふとて
月のまる山 いなりたうとき
皆人へ利生を照らし給うとて
月の丸山稲荷尊き
旅人「おれは腹が減ってたまらないが、昼食の握り飯をどこかへ落としてしまったようだ。ひもじくてならぬ。どうだ、きさまの握り飯を、おれにひとつくれぬか。ナニ? もう、みな食ってしまったというのか。ウソをつくな、きさまはシワい(ケチな)男だ。まだあることを、おれが知ってるから言うのだ。エ? 確かにないか? なければしょうがない。おれが隠しておいたのを出して食いましょう。人の腹が減ったのはたえられるものだが、自分の腹が減ったのは、どうにもたえられん。」
新宮六本杉
新宮の社は今宮▲とも呼ばれ、十二院の中の我学院から左の方へ二丁ばかり行ったところにある。
お社の後ろは谷深く、そこに一本の古い杉の木がそびえている。根元から六本に分かれた大木で、その高きこと十余丈(30~40m)、幅は三尺(1m弱)である。
狂歌
見とれては うてうてんぐの すみかとも
しらずに杉の 古木ながむる
見とれては有頂天狗の棲家とも
知らずに杉の古木眺むる
旅人Ⓐ「この六本杉には天狗が棲んでいると聞いたが、なるほど、見なさい。アレ!アレ! 天狗のヒヨコが見える。しかし、トンビかも知れん。天狗にしては、鼻が低いようだ。」
旅人Ⓑ「それは、まだ子供だからさ。だんだん大人になるにつれて、あの鼻も大きくなるだろう。まさにわしの鼻も、初めは唐辛子のようであったが、だんだんとそれが、さつまいものようになって、後には練馬大根のようになったが、今ではシワがよって干し大根のようになってしまったから…しょうがない。」