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方言修行むだしゅぎょう 金草鞋かねのわらじ江之島鎌倉廻えのしまかまくらめぐり

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丸山稲荷・新宮六本杉

丸山稲荷まるやまいなり

十二いんはつるがおかの
にしのかたにありしや
そうなりいにしへは
二十五いんありしとなり
このうちしやうごんいんの
うしろの山をさんきよほう
といふさんていありこのとこ
ろより見わたし
ふうけいいたってよしこの
あたりにまるやまいなりの
みやありこれも
けいちなり

狂歌

みな人へ
りせうを
てらし給ふ
   とて
月のまる山
いなり
  たうとき

「わしははらがへつてこたへられぬがちう
じきのにぎりめしをさつきどこへかおとして
しまつたひもじくてならぬなんときさまの
にぎりめしをおれにひとつくれぬかなにもふ
みなくつてしまつてないといふかうそをつくの
きさまはしわいおとこたまだあることをおれが

しつてゐるから
いふのだいよ/\
ないかなくは
しかたがないから
おれか

かく
して
あるのを
出してくひ
ませう
ひとのはらの
へつたのは
こら

られ

ものだが
わがはらの
へつたのは
どうも
こらへ
られぬ

新宮六本杉しんぐうろくほんすぎ

しんぐうのやしろはほうちうがゝくいんのやしろより
ひだりのかたへ二丁ばかりにありいまみやといふ
やしろのうしろはたにふかく一ほんのふるき
すぎあり大ぼくにしてねもとより
六ほんにわかれそのたかきこと
十よじやうわたり三尺のらう
ぼくなり

狂歌

見とれては
うてうてんぐの
すみかともしらずに
すぎ古木こぼくなが
    むる

「この六ほんすぎ
にはてんぐがすんで
ゐるときいたがなる
ほど見なさいあれ/\
てんぐのひよこが
見へるしかしとんびか
しらぬてんぐに
してははなが
ひくいやうだ
「それはまだ
こどもだからの
ことさだん/\
せいじんする
にしたがつて

あのはなも
大きくなるで
あらうてうど
わしがはなも
はじめは
とう
がらしの
やうで
あつたが
だん/\とそれが
さつまいものやうに
なつてのちにはねりま
大こんのやうになつたが
今ではまたしわがよつて
ほしだいこんのやうに
なつたからはじまらない