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比企谷妙本寺・田代観音
大御堂と呼ばれるところは頼朝公が初めて建立した勝長寿院▲の跡地である。釈迦堂ヶ谷は大御堂の東にあり、北条泰時が建立した釈迦堂の跡地のことをいう。文覚の屋敷跡▲は、この西の方にある。
このあたりにある屏風山の手前を葛西ヶ谷と呼ぶ。その南には、比企ヶ谷妙本寺▲があるが、日蓮宗池上本門寺と関係の深い寺である。
さらにその南には、坂東の札所、田代観音▲がある。
狂歌
かまくらひ どれと見へたる 酒のみの
あとひきがやつ ちゃ屋にうかるゝ
かま喰ら(鎌倉)い、どれと見えたる酒飲みの
後引き(比企)が谷、茶屋に浮かれる。
旅人Ⓐ「どうだ、いっそのこと、これから裏側から船に乗って房州(千葉県)へ行ってみないか。」
旅人Ⓑ「きさまは独り身だからどこへ行ってもいいが、おいらは妻子のある身だ。女房が、おいらが上達して帰るのを楽しみに待っている。いつまでも、ひもじい思いをさせておくのは、かわいそうだ。」
旅人Ⓐ「これはおかしい。なに、おまえのかかしゅが、ひもじい思いなどしてるものか。今ごろは若い男をこさえて、ちっともひもじくないから気づかいしなさるな。」
旅人Ⓑ「そんなら、どこへ行ってもいいが、おいらが家のことで気になるのはそのことばかり。どうしてまた、おいらの女房がひもじくないことを知っているのだ。ガテンがいかぬ。」
旅人Ⓐ「それは、この前おまえが伊勢へ行ったとき、その留守中かみさまが色男をこさえて、ちっともひもじくなかったことを、わしはよく見て知ってるからだ。どうせ、今度もそんなところでしょう。」
旅人Ⓑ「そんなら、これで落ち着いた。サァサァ、これから房州でも、どこへでも出かけるのだ!」
旅人Ⓒ「旅は憂いもの辛いものと言うが、それは銭なしのことだ。こっちは銭ありだから、おもしろい、おもしろい。」
旅人Ⓓ「どうだ、俺の踊りは色気があるだろう。それだから、今まで大勢、女の見物があったのに、みんなどこかへ行ってしまった。」