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腰越
江ノ島を後にして腰越▲の漁師町を過ぎ、七里ヶ浜沿いを歩くと、海の向こうに安房上総の山々を見わたす景色がとてもよい。ただし砂道なので、歩くのがしんどいときは牛に乗るのもよし。
この途中に行合川▲という川がある。日蓮上人御難儀のときに、幕府の使いと刑場からの使いが行き合った所である。
狂歌
たいくつさ あともどりする すなみちを
のりたるうしの よだれだらだら
退屈さ後戻りする砂道を
乗りたる牛の涎だらだら
旅人「どうだ小僧、この中でオレが一番いい男だろう。このあたりにも、オレのようないい男はおるまい、どうだ、どうだ!」
小僧「おまえ、まず銭をくれさっしゃい。銭をくれたら褒めてやりましょう。ひょっと(もしも)先に褒めて銭をもらえぬと損だから、銭から先にくれさっしゃい。」
旅人「こいつ、抜け目のない小僧めだ。こっちもそのとおり、先に銭をやって、ひょっと褒めてくれないとこっちの損だから、先に銭をやるのはごめんだ。」
小僧「そんなら、くれずとおかっしゃい。もらったところが、どうも褒めようのない顔だから、わしも、もらわぬほうが気が楽でようござるよ。」
星の井・長谷観音
浜辺から鎌倉道に入るところに茶屋があり、絵図を使って鎌倉案内をして商売をしている。
稲村ヶ崎には、日蓮上人の袈裟掛松▲があり、さらに行くと虚空蔵堂と星の井▲がある。このあたりは、村立場や茶屋が多い。
この近くに長谷観音▲があり、海光山という。坂東巡礼四番の札所である。
狂歌
煮かへり あせふくばかり めしをたく
かまくらみちの 夏の旅人
煮えかえり汗拭くばかり飯を炊く
釜(鎌)倉道の夏の旅人
旅人「おや、この婆さまは頼んでもないのに、かってに絵図の講釈をして、その代金を十二文も取るのか。よしよし、あなたの言った通りにわしがよく覚えたから、こんどはあなたへわしが講釈して聞かせるので、その十二文をこっちへ返しなさい。」
婆さま「そんなら、おまえ、よく覚えさしったなら丁度よい。向こうで休んでござるお方へ、おまえが講釈をしてあげなさい。その銭をこっちがもらえば、願ってもないことでござる。」
旅人②「婆さま、ここに娘はないか。あるなら出して見せなさい。婆さまと娘では、茶代の置きようがちがいます。」