お江戸のベストセラー

方言修行むだしゅぎょう 金草鞋かねのわらじ江之島鎌倉廻えのしまかまくらめぐり

2

腰越・星の井・初瀬観音

腰越こしごへ

ゑのしまをいでゝこしごへの
りやしまちをうちすぎ
て七りのはまつたひ
むかふにあわかづさの
やま/\を見わたしけしき
よしされどもすなみち
にてなんぎなり此あいだ
うしにのりてよしこのなか
ほどにゆきあい川と
いふありにちれん上人
御なんぎのときかまくらの
つかひとけんしよりのつかひと
ゆきあひしところなりとふ

狂歌

たいくつさあともどりする
すなみちをのりたるうしの
      よだれだら/\

「なんとこぞうこのなかでおれが一ばんよい
おとこだらうこのへんにもおれがやうな
よいおとこはあるまいどうだ/\
「おまへまづぜにをくれさつしやい
ぜにをくれたらほめてやりませう
ひよつとさきへほめてぜにをくださらぬと
そんだからぜにからさきへくれさつしやい
「こいつぢよさいのないこぞうめだ
こつちもそのとほりさきへぜにをやつて
ひよつとほめてくれないとこつちの

そんだからさき
ぜにはごめんだ

「そんならくれ
ずとおかつしやい
もらつた所が
どふもほめ
ようの
ない
かおだ
から
わしも
もらはぬ
ほうが
きが
らくで
よふ
ござるよ

ほし初瀬観音はせくはんおん

はまべよりかまくらみち
いるところにちややあり
こゝにてかまくらのゑづ
をいだしこうしやくして
これをあきなふよこて
はらにちれん上人の
けさかけまつありそれ
よりこくうぞうどう
ほしのゐむらたてば
ちややおほしこれより
はせのくわんおんあり
かいくわうさんといふ
ばんどうじゆんれい四
ばんのふだ所なり

狂歌

にへかへりあせふく
       ばかり
めしをたくかまくら
みちの
なつ旅人たびゞと

たび人
「ヲヤこのばあさまはだれ
もきかうといひもせぬ
のにこのゑづのこうしやく
をしてそのだいを十二もん
とるのかよし/\こなたのいつた
とほりわしがよくおほへたから
こなたへわしがまたこうしやくして
きかせやうからその十二文こつちへかへしなさい

「そんなら
おまへ
よく
おぼへ
さし
つた
なら
てふ

よい

むかふにやすん
でござるおかたへ
おまへこう
しやく

してあげて
くれな
さい
その
ぜにはこつちへとつ
てそれでてうと
よふござろう

「ばあ
さま
こゝの
うちに
むすめは
ないか
あるなら
だして
見せな
さい
ばあ
さまと
むす
めでは
ちや
だいの
おきやうが
ちがい
ます