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方言修行むだしゅぎょう 金草鞋かねのわらじ江之島鎌倉廻えのしまかまくらめぐり

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金沢・能見堂

金沢かなざわ能見堂のうけんどう

かなざわはむつらのせうのうちにして
せとばしよりひがしをいふこのちふうりう
のところにしてハけいのながめいふばかり
なしここにきんたくさんせうめうじといふ
しんごんしうの大てらありかなざは
ぶんこのあとはとうじのけいだいあみだ
いんのうしろにありあをばのかへで
さいこのうめふげんぞうのさくら
みなけいだいのめいぶつなりのうけん
どうはせうめうじのにしきたに
ありてぢぞういんといふこせの
かなおかゞふですてまつありこのち
よりかなざはハけいひとめに見ゆるなり

狂歌

ふうけいはのうけん
     どうにふで
すてしまつしまにさへ
    おとらざりけり

「なるほどよいけしきだわしが
まへかたあきのみやじまへいつて
やどやのにかいにひとり
てうどこのやうにけしきを
ながめてさけをのんでゐると
やどの女ぼう年ごろ二十
四五でうつくしいやつが
十二三ばかりになるむす
めをつれてきていふには
あなたはさきほど
うちのおなごにさみ
せんのいとをかひにつかは
されましたがさみせん
をおひきなさるでござ
りませうわたくしもすき
でござりますなんぞ
ひいておきかせなされて
くださりませといふその
あいきやうはこぼるゝばかり
こゝでおれがさみせんをひくと
おもしろからうけれどせうとく
こつちはさみせんはしらぬものだ
からいろ/\ことわりをいつてもきかず
なにごぞんしのないことがござり
ませうさみせんのいとをかひに
つかはされたからはぜひともおねがひ
申しますといふこんなこまつた事は
ないなるほど女をたのんでさみせん
いとをかひにやつたはわしがいればを
つないだいとがきれたからそのいれ
ばをつなぐいとにするのだものをまさか
いろけもなくそうもいわれずあのいとは
わきざしがさやばしるからそのとめにこよりでは

きれるから
あのいとで
こいくちをしばつ
たのさといふと
そこにゐるむすめ
つこがなに
わしがさつき
見たらあの
おきやくさまが
あのいとでいれ
ばをつないで
ござつたと
このむすめに
だいざごくわう
ぶちまけられて
わしはそのかみ
さまのてまへ
まことにめんぼく
なくてわしが
さふらひならば
はらでもきら
ねばならぬ
ところでござ
りました