由井濱
①
このあたりをすべてゆゐのはまといふこゝに
八まんぐうの大とりゐあり御ほんしや
までこのところより十八丁ありむかし
につたよしさださがみにうどうを
ほろぼしけるときいなむらが
さきのうみをわたりたりと
いふ七りのはまとこの
ゆいのはまのあいだ
なりつねにれうし
この所にてあみを
ひきりやうを
なすところにて
みなりやうしのみ
のきをならべて
すぎわいをなす
はまなり
狂歌
そりたての
あをさか
やきと
みゆるかな
なみたいらけき
なみゆいの
はま
②
「なんとこのうみと
いふものはたいそうなものさ
せかいぢうでとるさかなも
大きなことだがつきるといふことは
ないうみも大きいがさかなにも
大そうなものがあるわしが
こんひらへいつたとき
びぜんのふねがさき
へはゆかれぬこれは
とんだところへ
きあはせたと
せんどうがいふ
からなぜだと
きいたらあの
むかふを見な
さいうみが
いちめんに
まつくろに
なつたはこんど
ひぜんごとう
うらのくじら
のところから
くまのうらの
くじらの所へ
よめいりが
ゆくその
ぎやうれつ
でながさが
三十けんも
五十けんも
③
あるくじらが
いくらも/\
つゞいてとほる
ことだから
このあいだから
まいにちふねの
わうらいが
とまつたと
いふことだといふ
わしもふな
ばたへ出て
見たらむかふの
うみのなかゞまつ
くろになつて
大きなくじらが
ぞろ/\と
ならんで
とほつたが
さきへ
いつた
くじらが
どうだ
あとの
しゆ
うが
らちが
あかぬ
はやくこ
ぬかなに
をしている
のだとその
くじらがあとへ
ふりかへつて
みた
④
ばつかりで
そこにいた
こぶねが三ぞう
ばかりどこへかはね
とばされてなくなつた
からわしのふねもそう/\
わきへにげましたが
あんなめづらしい事は
めつたにござるまい
「なにさくじらが
そんなにめづらしい
ものかわしが此あいだゑどのかうじ
まちで大きなくじらを見ました
てあしをしばつてだいどうへ
ほふり出してあつたがたいそうな
ものであつた「なにをいふ
くじらに手あしが
あるものか
「あるとも/\きさまの
いふはうみのくじら
わしのいふのは
やまくじらで
ござる