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方言修行むだしゅぎょう 金草鞋かねのわらじ江之島鎌倉廻えのしまかまくらめぐり

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由井濱

由井濱ゆゐのはま

このあたりをすべてゆゐのはまといふこゝに
八まんぐうの大とりゐあり御ほんしや
までこのところより十八丁ありむかし
につたよしさださがみにうどうを
ほろぼしけるときいなむらが
さきのうみをわたりたりと
いふ七りのはまとこの
ゆいのはまのあいだ
なりつねにれうし
この所にてあみを
ひきりやうを
なすところにて
みなりやうしのみ
のきをならべて
すぎわいをなす
はまなり

狂歌

そりたての
あをさか
   やきと
みゆるかな
なみたいらけき
なみゆいの
    はま

「なんとこのうみと
いふものはたいそうなものさ
せかいぢうでとるさかなも
大きなことだがつきるといふことは
ないうみも大きいがさかなにも
大そうなものがあるわしが
こんひらへいつたとき
びぜんのふねがさき
へはゆかれぬこれは
とんだところへ
きあはせたと
せんどうがいふ
からなぜだと
きいたらあの
むかふを見な
さいうみが
いちめんに
まつくろに
なつたはこんど
ひぜんごとう
うらのくじら
のところから
くまのうらの
くじらの所へ
よめいりが
ゆくその
ぎやうれつ
でながさが
三十けんも
五十けんも

あるくじらが
いくらも/\
つゞいてとほる
ことだから
このあいだから
まいにちふねの
わうらいが
とまつたと
いふことだといふ
わしもふな
ばたへ出て
見たらむかふの
うみのなかゞまつ
くろになつて
大きなくじらが
ぞろ/\と
ならんで
とほつたが
さきへ
いつた
くじらが
どうだ
あとの
しゆ
うが
らちが
あかぬ
はやくこ
ぬかなに
をしている
のだとその
くじらがあとへ
ふりかへつて
みた

ばつかりで
そこにいた
こぶねが三ぞう
ばかりどこへかはね
とばされてなくなつた
からわしのふねもそう/\
わきへにげましたが
あんなめづらしい事は
めつたにござるまい
「なにさくじらが
そんなにめづらしい
ものかわしが此あいだゑどのかうじ
まちで大きなくじらを見ました
てあしをしばつてだいどうへ
ほふり出してあつたがたいそうな
ものであつた「なにをいふ
くじらに手あしが
あるものか
「あるとも/\きさまの
いふはうみのくじら
わしのいふのは
やまくじらで
ござる