聞より大王悦び給ひ、それくつきやうの事なめり、水辺の事なれば、いそぎ水府へ使を立、 龍王を呼寄よ。畏候とて数多の鬼の中より足疾鬼とて、またゝく内に千里行て千里戻る。 地獄の三度仲ヶ間へ仰付られければ、兎角する間もなく、八大龍王の惣頭、難陀龍王参内と披露させ、衣冠正しき其よそおひ、頭に金色の龍をいたゞき、瑪瑙の冠、瑠璃の纓、珊瑚虎珀の石の帯、玻璃の笏、瑇瑁の履、異形異類の鱗ども、前後をかこみ参内あり。御
階の本にひれ伏ば、大王はるかに御覧あり。珍しや龍王、只今召こと、余の義にあらず、此大王うそ恥しくも心をくだく恋人は南瞻部洲日本の地に、瀬川菊之丞と云ふ美少年あり、是を我手に入れんため、さま/\と評議せしに彼菊之丞、近日船遊に出るとの事ゆゑ、水中は汝が領分なれば、急ぎ召捕来るべしとありければ、龍王は恐入、勅定の趣いたい畏り奉る。私支配の者どもにて、鰐、鯋魚を初として、水虎、 水獺、海坊主なんど、人を取こと妙を得て候へば