十王方便に尽、もはや我々が知恵も中橋なれは、此上は修羅道へ使を立、太公望、 孔明、 韓信、張良、孫子、呉子、武則、義経、正成、道鬼が類の軍師どもを召れ、御評議然べしと申上れば、末座より、色至て赤、眼光鏡のごとく、口耳のきわまで切て、首有て形なきもの出ると見れば、人の一生の事を見届て帳に記す横目役、見る目と云る者なり。閻王の前にすゝみ出、かた/\の御評議、御尤には候得ども、是式の事に修羅道へ人を遣し、軍師どもを召れんことは
此界の恥辱といふべし。其上彼等が智謀計畧にて、此方の智恵を見すかされなば、いかなる謀をなして、小夜嵐の騒動以後、太平の地獄界、再乱世となるならば、上閻王より下獄卒に至までの難義なれば、軍者を御招は御無用たるべし。私は人のかたに居て、善悪を規が役目なれば、人々心に思ふ事をも明白に是を知れり。菊之丞を初として、其外の役者ども船遊に出べききざし有事、兼てより存たり。 此虚に乗て謀給はゞ、やわか御手に入ざらん哉と