お江戸のベストセラー

根南志具佐(ねなしぐさ)

原文(一之巻)

根南志具佐 一之巻13

▼開

殺(ころす)ことは成(なり)がたし。小文才(こぶんさい)のある医者(いしや)は、人(ひと)を殺(ころす)が商売(しやうばい)なれば、一(いつ)ぷくにても験(しるし)あるべしと申上(まをしあぐ)れば、閻王(ゑんわう)、暫(しばらく)御思案(ごしあん)あり、イヤ/\近年(きんねん)の医者どもは切(きり)つぎ普請(ぶしん)の詩文章(しぶんしやう)でも書(かき)おぼへ、所(ところ)まだらに傷寒論(しやうかんろん)の会(くわい)が一(いつ)ぺん通(どほ)り済(すむ)やすまずに、自(みづから)古方家(こはうか)、或(あるい)は儒医(じゆい)などゝは名乗(なの)れども、病(やまひ)は見(み)えず、薬(くすり)は覚(おぼ)えず、漫(みだり)に石膏(せきかう)芒硝(ぼうせう)の類(たぐゐ)を用(もちひ)て殺(ころす)ゆゑ、死(しゝ)て此土(このど)へ来(く)るもの格別(かくべつ)に色(いろ)も悪(わる)く痩(やせ)おとろへて、正真(しやうじん)の地獄(ぢごく)から火(ひ)を貰(もらひ)に来(き)たと云(い)ふやうな形(なり)になる事(こと)、是皆(これみな)当世(たうせい)

の医者(いしや)共(ども)、己(おの)が盲(めくら)はかへりみず、仲系(ちうけい)、孫子邈(そんしばく)、 張子和(ちやうしくわ)など同(おな)じやうに心得(こゝろえ)て、鸕鷀(う)の真似(まね)をする烏(からす)なれば、かあいや路考(ろかう)も薬毒(やくどく)に中(あたり)て死(しゝ)たらば、花(はな)の姿(すがた)を引(ひき)かへて、火箸(ひばし)に目鼻(めはな)と痩(やせ)おとろへば、呼寄(よびよせ)てから詮(せん)もなし。何(なに)とぞ無事(ぶじ)に取寄(とりよせ)て互(たがひ)ちん/\ちがひの手枕(たまくら)に娑婆(しやば)と冥途(めいど)の寝物語(ねものがたり)、縁(ゑん)につるれば、日(ひ)の本(もと)の若衆(わかしゆ)の肌(はだ)を富楼那(ふるな)の弁(べん)、舎利弗(しやりほつ)が知恵(ちゑ)、目連(もくれん)が神通(しんづう)をかりてなりとも片時(へんじ)もはやく呼寄(よびよせ)て、朕(ちん)が思(おも)ひをはらさせよと、しほ/\として宣(のたま)へば、さしもの