お江戸のベストセラー

根南志具佐ねなしぐさ

原文(一之巻)

根南志具佐 一之巻13

ころすことはなりがたし。小文才こぶんさいのある医者いしやは、ひところす商売しやうばいなれば、いつぷくにてもしるしあるべしと申上まをしあぐれば、閻王ゑんわうしばらく御思案ごしあんあり、イヤ/\近年きんねんの医者どもはきりつぎ普請ぶしん詩文章しぶんしやうでもかきおぼへ、ところまだらに傷寒論しやうかんろんくわいいつぺんどほすむやすまずに、みづから古方家こはうかあるい儒医じゆいなどゝは名乗なのれども、やまひえず、くすりおぼえず、みだり石膏せきかう芒硝ぼうせうたぐゐもちひころすゆゑ、しゝ此土このどるもの格別かくべついろわるやせおとろへて、正真しやうじん地獄ぢごくからもらひたとふやうななりになること是皆これみな当世たうせい

医者いしやどもおのめくらはかへりみず、仲系ちうけい孫子邈そんしばく張子和ちやうしくわなどおなじやうに心得こゝろえて、鸕鷀真似まねをするからすなれば、かあいや路考ろかう薬毒やくどくあたりしゝたらば、はな姿すがたひきかへて、火箸ひばし目鼻めはなやせおとろへば、呼寄よびよせてからせんもなし。なにとぞ無事ぶじ取寄とりよせたがひちん/\ちがひの手枕たまくら娑婆しやば冥途めいど寝物語ねものがたりゑんにつるれば、もと若衆わかしゆはだ富楼那ふるなべん舎利弗しやりほつ知恵ちゑ目連もくれん神通しんづうをかりてなりとも片時へんじもはやく呼寄よびよせて、ちんおもひをはらさせよと、しほ/\としてのたまへば、さしもの