お江戸のベストセラー

根南志具佐ねなしぐさ

原文(一之巻)

根南志具佐 一之巻11

ぬしたる大王だいわうふべきにあらず。是非ぜひ/\御望おんのぞみとあることならば、使つかひをつかわし召捕めしとりまいらんに、何条事なんでうことあるべきや。いづれもいかにとまをされければ、一座いちざ人々ひと/\くちそろへ平等王べうどうわう評議へうぎはなはだ道理だうりあたつくだく大王だいわうもつともきかれければ、いざや路考ろかう召捕めしとりつかはすべき使つかひ詮議せんぎせられけるに、 泰山王たいざんわうまをされけるは、それ人生ひとうまれては定業ぢやうごうにあらざれば、このへはきたらざるならひなり。いざ/\定業帳ぢやうごうてう詮義せんぎあるべしとて取出とりださせ、つく/\とくりかへしてまをされけるは、うま霜月しもつき佐野川さのがはいち

まつひつじ七月しちぐわつ中村なかむら助五郎すけごらう腫物しゆもつにてすべしとはあれども、菊之丞きくのぜういのちはいまだつくべき時節じせつにあらず。御使おんつかひつかはされたりとも、彼国かのくにには伊勢いせ八幡はちまんはじめとして、かれ氏神うぢがみ王子わうじ稲荷いなりなんぞとて、わぬあひにて、此界このかいをも直下ちよつか見下みくだす、おへない親父おやぢ沢山たくさんまもれば、 中々なか/\表立おもてたつての御使おつかひにてはぞんじもよらず、此義このぎいかにと申されければ、初江王しよこうわう進出すゝみいでまをしけるは、それこそ安事やすきことなんめり。愛宕山あたごやま太郎坊たらうばう比良山ひらやま次郎坊じらうばうなどに申つけなば、たちまちつかむまゐらんこと