お江戸のベストセラー

根南志具佐ねなしぐさ

原文(一之巻)

根南志具佐 一之巻05

ゑがきたる菊之丞きくのぜう絵姿ゑすがたなり。若気わかげとはいひながら師匠しせうおやをかすめたるとが一々いち/\鉄札てつさつ記置しるしおきたり。しかしながら今時いまどき坊主ばうずおもてむきは抹香まつかうくさいかほしながら遊女ゆうぢよぐるひにうきをやつし、かも明神みやうじんねぎ神主かんぬしなどゝと名付なつけ取喰とりくらふかられば、坊主ばうず優童やろうぐるひは、其罪そのつみかるきたればつるぎやませめ一等いつとうゆるしかれ好所このむところかまいりにつかまつらんとうかゞへば、閻王ゑんわうもつてほかいからせ給ひ、いや/\かれつみかるきかるからず。すべ娑婆しやばにて男色なんしよくといへる事有ことあるよし、われはなはだ合点がてんゆかず。夫婦ふうふみち陰陽いんやう自然しぜん

なればそのはづのことなれども、おなをとこをおかすことけつしあるべからずことなり。唐土もろこしにてはひさしきよりありて、書経しよきやうには頑童ぐわんどうちかづくことなかれといましめ、しう穆王ぼくわう慈童じどうあいしてより菊座きくざ名始なはじまり、弥子瑕びしか董賢とうけん孟東野もうとうやたぐひ、また日本につぽんにては弘法こうぼふ大師だいし渡天とてんみぎり流砂川りゆうさがは川上かはかみにて文殊もんじゆちぎりをこめしより、文殊もんじゆ支利しりぼさつのがうとり弘法こうぼふ若衆わかしゆ祖師そし汚名おめいのこし、熊谷くまがへ直実なほざね無官むくわん太夫たいふ敦盛あつもり須广すまうらにてひきこかし、ハリハドツコイなされけるとうたはれ、