根奈志具佐四之巻
行川の流はたへずして、しかももとの水にあらずと、鴨の長明が筆のすさみ、硯の海のふかきに残すみだ川の流清らにして、武蔵と下総のさかいなればとて両国橋の名も高く、いざこと問むと詠じたる都鳥に引かへ、すれ違ふ舟の行方は秋の木の葉の散浮がごとく、長橋の浪に伏は龍の昼寝をするに似たり。かたへには軽業の太鼓雲に響ば、雷も臍をかゝへて逃去、素麺の高盛は降つゝの手尓葉を移て、小人島の不二山かと思
原文(四之巻)
行川の流はたへずして、しかももとの水にあらずと、鴨の長明が筆のすさみ、硯の海のふかきに残すみだ川の流清らにして、武蔵と下総のさかいなればとて両国橋の名も高く、いざこと問むと詠じたる都鳥に引かへ、すれ違ふ舟の行方は秋の木の葉の散浮がごとく、長橋の浪に伏は龍の昼寝をするに似たり。かたへには軽業の太鼓雲に響ば、雷も臍をかゝへて逃去、素麺の高盛は降つゝの手尓葉を移て、小人島の不二山かと思