根奈志具佐五之巻
定なき世と人ごとにいへども、世の定なきよりは、只定なきは人の心にてぞ有ける。古人、 春宵一刻値千金とめつたに高ばれば、又浮世を三分五厘と捨売にする男もあり。然ども、 春宵一刻に千金出して買たわけもなく、三分五厘に売て仕舞ふ出来合の浮世もなし。いかに口から地代の出ぬものなればとて、出る侭のいひたい事、つまる処は能も悪もいひなし次第の浮世にて、浮世の定なきは人の心の定なきなり。聖
原文(五之巻)
定なき世と人ごとにいへども、世の定なきよりは、只定なきは人の心にてぞ有ける。古人、 春宵一刻値千金とめつたに高ばれば、又浮世を三分五厘と捨売にする男もあり。然ども、 春宵一刻に千金出して買たわけもなく、三分五厘に売て仕舞ふ出来合の浮世もなし。いかに口から地代の出ぬものなればとて、出る侭のいひたい事、つまる処は能も悪もいひなし次第の浮世にて、浮世の定なきは人の心の定なきなり。聖