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根南志具佐(ねなしぐさ)

原文(五之巻)

根南志具佐 五之巻08

▼開

養子(やうし)とし、兄弟(けうだい)と思(おも)へとある。呉(くれ)/\の御詞(おことば)、 今我(いまわれ)不肖(ふせう)の身(み)ながらも三ヶ津(さんがのつ)の舞台(ぶたい)を踏(ふむ)こと、親(おや)にもまさる大恩(だいおん)は養親(やしないおや)とも師匠(しせう)とも一(ひと)かたならぬ情(なさけ)ぞや。今(いま)はのきはにも枕元(まくらもと)に招寄(まねきよ)せ、我身(わがみ)ばかりか菊次郎(きくじらう)まで名人(めいじん)の名(な)を残(のこ)せば、死(しぬ)る命(いのち)は惜(おし)からねど、心(こゝろ)にかゝるは吉二(きちじ)が事(こと)。何(なに)とぞ其方(そのはう)、我(われ)にかはり吉二(きちじ)を守(も)り立(たて)、二代目(にだいめ)の菊之丞(きくのぜう)といはせてくれよと涙(なみだ)を流(なが)せし末期(まつご)の詞(ことば)、心(しん)こんにしみ渡(わた)り、命(いのち)にかへても後見(こうけん)し名(な)を上(あげ)させ申(まをす)べし。御気遣(おきづかひ)あられなと聞(きい)て、につ

こと打笑(うちわら)ひ此世(このよ)を去(さら)せ給ひしを思(おも)ひ出(いだ)すも泪(なみだ)ぞや。まだ幼少(えうせう)の路考殿(ろかうどの)世話(せわ)にせし恩返(おんがへ)し、父御(ちゝご)に習(ならひ)し芸(げい)の秘伝(ひでん)も、五年(ごねん)以前(いぜん)に又(また)伝授(でんじゆ)、次第(しだい)に名高(なたか)く、見物(けんぶつ)も路考(ろかう)/\と評判(へうばん)は我身(わがみ)の名(な)を上(あげ)るより悦(よろこば)しさは百(ひやく)そうばい。評判を取度(とるたび)ごとに位牌(ゐはい)に向(むか)ひ、くり言(こと)の自慢(じまん)を師匠(しせう)の末期(まつご)の詞(ことば)忘(わす)れ置(おか)ぬ我(わが)寸志(すんし)。しかるに今日(こんにち)の入(いり)わけにて、路考(ろかう)どのを死(し)なせては師匠(しせう)への云(いひ)わけなく、二(ふた)ッには又(また)瀬川(せがは)の名字(みやうじ)断絶(だんぜつ)させては本意(ほんい)ならず。我(われ)は死(し)すとも子(こ)もあれば、荻野(おぎの)