養子とし、兄弟と思へとある。呉/\の御詞、 今我不肖の身ながらも三ヶ津の舞台を踏こと、親にもまさる大恩は養親とも師匠とも一かたならぬ情ぞや。今はのきはにも枕元に招寄せ、我身ばかりか菊次郎まで名人の名を残せば、死る命は惜からねど、心にかゝるは吉二が事。何とぞ其方、我にかはり吉二を守り立、二代目の菊之丞といはせてくれよと涙を流せし末期の詞、心こんにしみ渡り、命にかへても後見し名を上させ申べし。御気遣あられなと聞て、につ
こと打笑ひ此世を去せ給ひしを思ひ出すも泪ぞや。まだ幼少の路考殿世話にせし恩返し、父御に習し芸の秘伝も、五年以前に又伝授、次第に名高く、見物も路考/\と評判は我身の名を上るより悦しさは百そうばい。評判を取度ごとに位牌に向ひ、くり言の自慢を師匠の末期の詞忘れ置ぬ我寸志。しかるに今日の入わけにて、路考どのを死なせては師匠への云わけなく、二ッには又瀬川の名字断絶させては本意ならず。我は死すとも子もあれば、荻野