お江戸のベストセラー

根南志具佐ねなしぐさ

原文(五之巻)

根南志具佐 五之巻08

養子やうしとし、兄弟けうだいおもへとある。くれ/\の御詞おことば今我いまわれ不肖ふせうながらも三ヶ津さんがのつ舞台ぶたいふむこと、おやにもまさる大恩だいおん養親やしないおやとも師匠しせうともひとかたならぬなさけぞや。いまはのきはにも枕元まくらもと招寄まねきよせ、我身わがみばかりか菊次郎きくじらうまで名人めいじんのこせば、しぬいのちおしからねど、こゝろにかゝるは吉二きちじことなにとぞ其方そのはうわれにかはり吉二きちじたて二代目にだいめ菊之丞きくのぜうといはせてくれよとなみだながせし末期まつごことばしんこんにしみわたり、いのちにかへても後見こうけんあげさせまをすべし。御気遣おきづかひあられなときいて、につ

こと打笑うちわら此世このよさらせ給ひしをおもいだすもなみだぞや。まだ幼少えうせう路考殿ろかうどの世話せわにせし恩返おんがへし、父御ちゝごならひげい秘伝ひでんも、五年ごねん以前いぜんまた伝授でんじゆ次第しだい名高なたかく、見物けんぶつ路考ろかう/\と評判へうばん我身わがみあげるよりよろこばしさはひやくそうばい。評判を取度とるたびごとに位牌ゐはいむかひ、くりこと自慢じまん師匠しせう末期まつごことばわすおかわが寸志すんし。しかるに今日こんにちいりわけにて、路考ろかうどのをなせては師匠しせうへのいひわけなく、ふたッにはまた瀬川せがは名字みやうじ断絶だんぜつさせては本意ほんいならず。われすとももあれば、荻野おぎの