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根南志具佐(ねなしぐさ)

原文(五之巻)

根南志具佐 五之巻03

▼開

ければ、菊之丞(きくのぜう)すり寄(より)て、何(なに)とてかく物思(ものおも)はせ給ふ躰(てい)のましますやと、いと念頃(ねんごろ)に尋(たづぬ)れども、 彼男(かのおとこ)は猶(なほ)さらにさしうつむき、とかうの詞(ことば)も泪(なみだ)より外(ほか)いらへなし。路考(ろかう)も心済(こゝろすま)ざれば、扨(さて)はわらはが心(こゝろ)いき、御気(おき)に染(そま)ぬ事(こと)もや有(あり)けん。かく打(うち)とけし中(なか)に何(なに)とてものを包(つゝみ)給ふやと、打(うち)うらみたる躰(てい)なりければ、彼男(かのおとこ)泪(なみだ)をおしぬぐひ、かほどに深(ふかく)御身(おんみ)の志(こゝろざし)を仇(あだ)になしていはぬもつらし武蔵鐙(むさしあぶみ)、かゝる情(なさけ)の其上(そのうへ)に、わらはが心(こゝろ)の気(き)に染(そま)ぬかとの一言(いちごん)、胸(むね)にこたへて覚(おぼ)ゆれば、仔細(しさい)をあかし

侍(はべ)るなり。必(かならず)/\驚(おどろき)給ふべからず。我(われ)実(じつ)は人間(にんげん)にてはあら波(なみ)くゞり水底(みなそこ)を家(いへ)と定(さだめ)て住(すみ)なれし水虎(かつぱ)といふものなりと聞(きく)より、路考(ろかう)はあきれけるが、いかなる仔細(しさい)にてあるらんと心(こゝろ)をしづめ聞居(きゝゐ)たれど、思(おも)はずぞつと寒(さむ)けだち、すみ/\を見らるゝ心地(こゝち)なりけれども、漸(やうやく)に胸(むね)押(おし)しづめ、 心(こゝろ)の内(うち)にとなへごとなどして、猶(なほ)も様子(やうす)をぞ聞居(きゝゐ)たりける。彼男(かのおとこ)は㒵(かほ)押拭(おしぬぐ)ひ、我(われ)かく人間(にんげん)の姿(すがた)と成(なり)て来(きた)りしわけを語(かた)るべし。故有(ゆゑあり)て閻魔(ゑんま)王(わう)、御身(おんみ)を深(ふか)く恋(こひ)したひ、何(なに)とぞ冥土(めいど)へつれ来(きた)れ