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根南志具佐(ねなしぐさ)

原文(五之巻)

根南志具佐 五之巻02

▼開

人(じん)も父母(ふぼ)の国(くに)を尻引(しりひつ)からげて去(さり)給ふは、魯国(ろこく)広(ひろし)といへども、馬(ま)の合(あつ)た相手(あひて)なきゆゑと見(み)へたり。また程子(ていし)に逢(あふ)て蓋(きぬがさ)をかたむけ、途中(とちう)にてしびりの切(きれ)る程(ほど)長噺(ながばな)しは、初対面(しよたいめん)から心(こゝろ)の合(あひ)たるが故(ゆゑ)なり。心合(こゝろあは)ざれば、親子(おやこ)兄弟(けうだい)も仇敵(あだかたき)のごとく、 口(くち)が合(あ)へば、四海(しかい)みな兄分(あにぶん)ともなり若衆(わかしゆ)ともなるとは、酸(すひ)も甘(あまい)も喰(くふ)て見(み)たる詞(ことば)なり。されば、今(いま)評判(へうばん)随一(ずゐいち)の路考(ろかう)なれば、誰(たれ)か一人(いちにん)望(のぞま)ざるものなからんや。皆能(みなよく)器量(きりやう)とゆひ綿(わた)の紋(もん)を見(み)てさへ心(こゝろ)動者(うごくもの)多(おほ)し。されども独(ひとり)も手(て)に入(い)れる者(もの)なきに、いか

なれば彼男(かのおとこ)、俄(にはか)の出会(であひ)にてかゝるさまに手(て)に入(い)れしは、誠(まこと)に此道(このみち)の氏神(うぢがみ)ともいふべし。程(ほど)なく二人(ふたり)は起(おき)あがりて、何(なに)かは知(し)らず手水(てうづ)などせしさまいと心(こゝろ)にくし。またもとの座(ざ)に直(なを)りて酒酌(さけくみ)かはせし躰(てい)、何(なに)となう始(はじめ)のほどよりは一入(ひとしほ)打(うち)とけてぞ見(み)えける。月(つき)も漸(やう/\)さしのぼり船中(せんちう)は昼(ひる)のごとく、川風(かはかぜ)そよと吹渡(ふきわたり)て、夏去(なつさり)秋(あき)の来(きたり)たる心地(こゝち)、いと興(きやう)あるさまなりけるに、彼男(かのおとこ)、路考(ろかう)が顔(かほ)をつれ/\と打守(うちまも)り、初(はじめ)は物(もの)かなしき躰(てい)なりしが、 猶(なほ)たえかねし思(おも)ひの色(いろ)外(ほか)にあらはれ、涙(なみだ)をはら/\と流(ながし)