お江戸のベストセラー

根南志具佐ねなしぐさ

原文(五之巻)

根南志具佐 五之巻02

じん父母ふぼくに尻引しりひつからげてさり給ふは、魯国ろこくひろしといへども、あつ相手あひてなきゆゑとへたり。また程子ていしあふきぬがさをかたむけ、途中とちうにてしびりのきれほど長噺ながばなしは、初対面しよたいめんからこゝろあひたるがゆゑなり。心合こゝろあはざれば、親子おやこ兄弟けうだい仇敵あだかたきのごとく、 くちへば、四海しかいみな兄分あにぶんともなり若衆わかしゆともなるとは、すひあまいくふたることばなり。されば、いま評判へうばん随一ずゐいち路考ろかうなれば、たれ一人いちにんのぞまざるものなからんや。皆能みなよく器量きりやうとゆひ綿わたもんてさへこゝろ動者うごくものおほし。されどもひとりれるものなきに、いか

なれば彼男かのおとこにはか出会であひにてかゝるさまにれしは、まこと此道このみち氏神うぢがみともいふべし。ほどなく二人ふたりおきあがりて、なにかはらず手水てうづなどせしさまいとこゝろにくし。またもとのなをりて酒酌さけくみかはせしていなにとなうはじめのほどよりは一入ひとしほうちとけてぞえける。つきやう/\さしのぼり船中せんちうひるのごとく、川風かはかぜそよと吹渡ふきわたりて、夏去なつさりあききたりたる心地こゝち、いときやうあるさまなりけるに、彼男かのおとこ路考ろかうかほをつれ/\と打守うちまもり、はじめものかなしきていなりしが、 なほたえかねしおもひのいろほかにあらはれ、なみだをはら/\とながし