なれば、是非/\我を連行て御命全ふし給ふべしといひつゝ、立て舟ばたより飛入んとする処を彼男いだきとめ、お志は嬉しけれども今御身を殺しては、流石いやしき畜生ゆゑ、情を仇にて報ぜしと世の取沙汰をせられては、我身ばかりの恥ならず、国に残せし親兄弟一門までの恥辱といひ、其上玉の顔を底の藻屑となさん事、見るに忍ぬことなれば、必はやまり給ふまじ。我さへ死ばことおさまる。いや主を殺ては、わらは情の道立ずと、互に命捨小
舟、死を争折からに、やれ待給へと聲をかけ立出るは、荻野八重桐なり。二人は驚、飛のかんとするを両手にて押しづめ、必さわき給ふべからず。最前蜆取んとて中洲まで行けるが、酔つよくして堪がたし。小舟に乗て立帰、お二人の閨の内いぶかしくは思ひしが、邪广せんもいかゞなり、または様子も聞んものと舟のあなたに身をひそめ、始終の様子は聞たるぞや。かげろふの夕を待、夏の蝉の春秋を知らざるさへ、命を惜習なるに、お二人の死を争ふとは、扨/\