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根南志具佐ねなしぐさ

原文(五之巻)

根南志具佐 五之巻06

なれば、是非ぜひ/\われ連行つれゆき御命おいのちまつたふし給ふべしといひつゝ、たつふなばたより飛入とびいらんとするところ彼男かのおとこいだきとめ、おこゝろざしうれしけれどもいま御身おんみころしては、流石さすがいやしき畜生ちくしやうゆゑ、なさけあだにてほうぜしと取沙汰とりさたをせられては、我身わがみばかりのはぢならず、くにのこせし親兄弟おやけうだい一門いちもんまでの恥辱ちぢよくといひ、其上そのうへたまかんばせそこ藻屑もくずとなさんことるにしのびぬことなれば、かならずはやまり給ふまじ。われさへしなばことおさまる。いやぬしころしては、わらはなさけ道立みちたゝずと、たがひいのちすて

ふねあらそふおりからに、やれまち給へとこゑをかけ立出たちいづるは、荻野おぎの八重桐やへぎりなり。二人ふたりおどろきとびのかんとするを両手りやうてにておししづめ、かならずさわき給ふべからず。最前さいぜんしゞみとらんとて中洲なかすまでゆきけるが、ゑひつよくしてたへがたし。小舟こぶねのつ立帰たちかへり、お二人ふたりねやうちいぶかしくはおもひしが、邪广じやませんもいかゞなり、または様子やうすきかんものとふねのあなたにをひそめ、始終しじう様子やうすきゝたるぞや。かげろふのゆふべまつなつせみ春秋しゆんじうらざるさへ、いのちおしむならひなるに、お二人ふたりあらそふとは、さて/\