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根南志具佐(ねなしぐさ)

原文(五之巻)

根南志具佐 五之巻07

▼開

やさしき事(こと)ながら、路考(ろかう)どの御事(おんこと)は、閻广王(ゑんまわう)恋(こひ)したひ給ふと聞(きけ)ば、とてものがれぬ命(いのち)なり。去(さり)ながら見(み)ぬ恋(こひ)とある事(こと)なれば、某(それがし)を身(み)がはりに立(たて)、 路考(ろかう)どのを助(たすけ)てたべ。何故(なにゆゑ)の身替(みがはり)と御不審(ごふしん)は有(ある)べきが、路考(ろかう)どのには能(よく)御存(ごぞんじ)、我(わが)荻野(おぎの)の系図(けいづ)といふは、元祖(ぐわんそ)荻野(おぎの)梅三郎(うめさぶらう)より親(おや)八重桐(やへぎり)に至(いたる)まで、 代(だい)/\名代(なだい)の女形(おんながた)にて、三ヶ津(さんがのつ)にて知(し)られ、 上方(かみがた)にては座元(ざもと)迄(まで)を勤(つとめ)しゆゑ、隠(かくれ)なき家筋(いへすじ)なり。然(しか)るに我父(わがちゝ)八重桐(やへぎり)、浮世(うきよ)をはやく去(さり)ける時(とき)、 某(それがし)はまだ三歳(さんさい)、母(はゝ)の懐(ふところ)にいだ

かれて知(し)るべの方(かた)へ身(み)を忍(しのび)しに、五(いつゝ)の歳(とし)、母(はゝ)に別(わかれ)たよる方(かた)なき孤(みなしご)にて、乞食(こつじき)非人(ひにん)ともなるべきを、路考(ろかう)どのゝ親(おや)菊之丞(きくのぜう)どの、我親(わがおや)とのしたしみありとて不便(ふびん)を加(くは)へ、我(われ)を養(やしな)ひ、産(うみ)の子(こ)も同然(どうぜん)にお乳(ち)やめのとゝかしづきて、漸(やう/\)人(ひと)と成(なり)し頃(ころ)より小歌(こうた)、三弦(さみせん)、扇(あふぎ)の手身(てみ)ぶり、聲色(こはいろ)、さま/\に教(おしへ)給ひて人(ひと)となし、幸(さいはひ)我(われ)に子(こ)もなければ、家(いへ)をも継(つが)すべけれども、其方(そのはう)我家(わがいへ)を継(つぐ)ならば、 荻野(おぎの)の名字(みやうじ)たえはてば先祖(せんぞ)の跡(あと)こふ人(ひと)なしとて、 我(われ)を親(おや)の八重桐(やへぎり)が名(な)に改(あらため)、こなたをむかへて