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根南志具佐ねなしぐさ

原文(五之巻)

根南志具佐 五之巻10

め、ぐらのうへよりざんぶりと水中すゐちう飛入とびいれば、ばつとたつたるみづけぶり、かたみにのこるうたかたのあわ消行きえゆくたまたえてはかなくなりゆけば、 船中せんちうにはかにさわぎたち、八重桐やへぎり入水じゆすゐこへ/\にいへど、こたへもあらじ。ふくなみのに/\、そここゝとさがせどさらふせんももなし。菊之丞きくのぜうなみだながらあけていはれぬうへいきては義理ぎりたちがたしと、ともに入水じゆすゐ覚悟かくごていなん様子やうすらねども、此躰このていおどろい平九郎へいくらう押留をしとゞめもつともそこのもよほせし船遊ふなあそびとはいひながら、八重桐やへぎり入水じゆすゐせしは畢竟ひつきやう怪我けが

ことといひ、われ/\とてもこの船中せんちう一所いつしよにありしことなれば、こなた一人ひとりのとがにあらず。おほやけ申上まをしあげなりともかくなりともみな/\一所いつしよなるべしと与三八よさはち船頭せんどう諸共もろともことばつくしとゞむれば、あけていはれぬむねうち、いたはしなみだしきなみの、そこよこゝよと大舟おほぶねおもたのんもとむれど、姿すがたみづのつれなくも、いづこにながれよるあめのふりかゝりにし憂事うきことを、かみいのれどせんすべのなぎさにおりて、玉鉾たまぼこみちをたどりて若草わかくさつまにかくぞとつげければ、 きゆるばかりのつゆは、置所おきどころさへしらなみあと