め、屋ぐらの上よりざんぶりと水中に飛入れば、ばつと立たる水けぶり、かたみに残るうたかたの泡と消行玉の緒の絶てはかなくなりゆけば、 船中俄にさわぎたち、八重桐入水と聲/\にいへど、こたへもあらじ。吹なみの間に/\、そこ爰とさがせどさらふ詮ももなし。菊之丞は涙ながら明ていはれぬ身の上の生ては義理も立がたしと、ともに入水と覚悟の躰。何の様子も知らねども、此躰に驚て平九郎押留、尤そこの催せし船遊とは云ながら、八重桐が入水せしは畢竟怪我の
事といひ、我/\とても此船中一所にありし事なれば、こなた一人のとがにあらず。公へ申上、兎なりとも角なりとも皆/\一所なるべしと与三八、船頭諸共に詞を尽て留れば、明ていはれぬ胸の内、いたはしなみだしきなみの、そこよ爰よと大舟の思ひ頼で求れど、姿も水のつれなくも、いづこに流夜の雨のふりかゝりにし憂事を、神に祈どせんすべの渚におりて、玉鉾の道をたどりて若草の妻にかくぞと告ければ、 消ばかりの露の身は、置所さへしら波の跡