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根南志具佐(ねなしぐさ)

原文(五之巻)

根南志具佐 五之巻10

▼開

め、屋(や)ぐらの上(うへ)よりざんぶりと水中(すゐちう)に飛入(とびい)れば、ばつと立(たつ)たる水(みづ)けぶり、かたみに残(のこ)るうたかたの泡(あわ)と消行(きえゆく)玉(たま)の緒(を)の絶(たえ)てはかなくなりゆけば、 船中(せんちう)俄(にはか)にさわぎたち、八重桐(やへぎり)入水(じゆすゐ)と聲(こへ)/\にいへど、こたへもあらじ。吹(ふく)なみの間(ま)に/\、そこ爰(こゝ)とさがせどさらふ詮(せん)ももなし。菊之丞(きくのぜう)は涙(なみだ)ながら明(あけ)ていはれぬ身(み)の上(うへ)の生(いき)ては義理(ぎり)も立(たち)がたしと、ともに入水(じゆすゐ)と覚悟(かくご)の躰(てい)。何(なん)の様子(やうす)も知(し)らねども、此躰(このてい)に驚(おどろい)て平九郎(へいくらう)押留(をしとゞめ)、尤(もつとも)そこの催(もよほ)せし船遊(ふなあそび)とは云(いひ)ながら、八重桐(やへぎり)が入水(じゆすゐ)せしは畢竟(ひつきやう)怪我(けが)の

事(こと)といひ、我(われ)/\とても此(この)船中(せんちう)一所(いつしよ)にありし事(こと)なれば、こなた一人(ひとり)のとがにあらず。公(おほやけ)へ申上(まをしあげ)、兎(と)なりとも角(かく)なりとも皆(みな)/\一所(いつしよ)なるべしと与三八(よさはち)、船頭(せんどう)諸共(もろとも)に詞(ことば)を尽(つくし)て留(とゞむ)れば、明(あけ)ていはれぬ胸(むね)の内(うち)、いたはしなみだしきなみの、そこよ爰(こゝ)よと大舟(おほぶね)の思(おも)ひ頼(たのん)で求(もとむ)れど、姿(すがた)も水(みづ)のつれなくも、いづこに流(ながれ)夜(よる)の雨(あめ)のふりかゝりにし憂事(うきこと)を、神(かみ)に祈(いのれ)どせんすべの渚(なぎさ)におりて、玉鉾(たまぼこ)の道(みち)をたどりて若草(わかくさ)の妻(つま)にかくぞと告(つげ)ければ、 消(きゆる)ばかりの露(つゆ)の身(み)は、置所(おきどころ)さへしら波(なみ)の跡(あと)