の名字は絶まじければ、五ッの歳より守立られ、 親にもまさる師の大恩報ずるは今此時。必/\妻子の事見捨ず、せわを頼入、心にかゝるは是ばかり。閻广王へ行たりとも、こなたの器量にくらぶれば雪と墨絵の鷺をからす、云くろむるは舞台の功。返す/\も路考どの、身持大事に酒過さず、世上の評判落まいと、ひたすら芸を修行して、親にも伯父にもまさりしといはるゝ程になり給ふが草葉の陰の思ひ出と、いと念頃に語にぞ、二人もなみだにくれながら、菊之丞はとり
すがり、親に別れて其後さま/\の御教訓浅からず。思ひしに身にかはらんとの御詞、 生々世々忘れはおかじ。去ながら御恩ある御身をころし、何とて我身をながらへん。是非此身を、イヤ我を、イヤ某と三人が死を争ふて、はてしなき折から平九郎、与三八、船頭など蜆なんどをとりもたせ、どや/\と立帰れば、三人あはてる其中に彼男は影のごとくきえて行衛は見へさりけり、菊之丞は、いましばしといふもいはれぬ他人の中、水面を見やる折から八重桐は覚悟をきは