根奈志具佐一之巻
「公無レ渡レ河、公竟渡レ河、墮レ河而死、 當二奈レ公何一」と詩に作しは、見ぬ唐土の古、夫の水に溺て死たるをなんかなしみに堪ざる妹子の歎とかや。されば宝暦十あまり三の年、水無月の頃、荻野八重桐となんいつる俳優人の水に入て死たる事、世の取沙汰のまち/\にして、それと定たる事を知人なし。其由て来る所を尋に、皓々の白を以て世俗の塵埃を蒙んやと憤て、汨羅に沈し屈原が流にもあらず、龍宮の玉を取んと海底に飛
原文(一之巻)
「公無レ渡レ河、公竟渡レ河、墮レ河而死、 當二奈レ公何一」と詩に作しは、見ぬ唐土の古、夫の水に溺て死たるをなんかなしみに堪ざる妹子の歎とかや。されば宝暦十あまり三の年、水無月の頃、荻野八重桐となんいつる俳優人の水に入て死たる事、世の取沙汰のまち/\にして、それと定たる事を知人なし。其由て来る所を尋に、皓々の白を以て世俗の塵埃を蒙んやと憤て、汨羅に沈し屈原が流にもあらず、龍宮の玉を取んと海底に飛