いとやすし。誰かある、天狗どもを召寄よと呼はり給へば、五官王、しばしと押とめ、いや/\此評議、宜かるまじ。情を知らぬ天狗ども、力にまかせ引抓で、もし疵付ては悔で返らず。それより疫神を遣さるゝが近道ならんと申さるれば、変成王かぶり打ふり、イヤ/\疫病神といへども、のふさんころり山椒味噌と手短に殺事はなりがたし。太陽経から段々伝経をしている内には、大王御待遠なるべければ、疫病神は御無用たるべし。一向それより近道は、今世上に沢山なる医者ども
に申付れば、一ふくにてもやり付る事、疫神などのおよぶべき所にあらず。此使は医者共に申付んと申さるれば、皆尤とうなづき、先よく殺医者は誰々ならんと評定ありけるに、一向文盲なる医者は、こはがつてめつたなる薬はもらず。何見せても六君子湯、益気湯の類一服の掛目わづか五分か七分の薬にて、白湯に香煎も同然。つまる所は一ふくで何分ツヽのわりを以謝礼をせしめる計にて、毒にもならず薬にもならざれば、そろ/\干べりのするは格別、急に