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根南志具佐ねなしぐさ

原文(一之巻)

根南志具佐 一之巻12

いとやすし。たれかある、天狗てんぐどもを召寄めしよせよとよばはり給へば、五官王ごくわんわう、しばしとおしとめ、いや/\この評議へうぎよろしかるまじ。なさけらぬ天狗てんぐども、ちからにまかせ引抓ひつつかむで、もし疵付きずつけてはくやんかへらず。それより疫神やくじんつかわさるゝが近道ちかみちならんと申さるれば、変成王へんじやうわうかぶりうちふり、イヤ/\疫病神やくびやうがみといへども、のふさんころり山椒味噌さんしよみそ手短てみじか殺事ころすことはなりがたし。太陽経たいやうけいから段々だん/\伝経でんけいをしているうちには、大王だいわう御待遠おんまちどほなるべければ、疫病神やくびやうがみ御無用ごむようたるべし。一向いつかうそれより近道ちかみちは、いま世上せじやう沢山たくさんなる医者いしやども

申付まをしつくれば、いつふくにてもやりつくこと疫神やくじんなどのおよぶべきところにあらず。此使このつかひ医者共いしやどもに申付んとまをさるれば、みなもつともとうなづき、まづよくころす医者いしや誰々だれ/\ならんと評定へうぢやうありけるに、一向いつかう文盲もんもうなる医者は、こはがつてめつたなる薬はもらず。何見なにみせても六君子湯りつくんしたう益気えきき湯のたぐゐ一服いつぷく掛目かけめわづか五分ごふん七分しちふんくすりにて、白湯さゆ香煎かうせん同然どうぜん。つまるところいつふくで何分なんぷんツヽのわりをもつて謝礼しやれいをせしめるばかりにて、どくにもならず薬にもならざれば、そろ/\ほしべりのするは格別かくべつきふ