お江戸のベストセラー

根南志具佐ねなしぐさ

原文(一之巻)

根南志具佐 一之巻03

新地獄しんぢごくをこしらへて、岡場所おかばしよ地獄ぢごくせうし。 三途川さんづがはばゝ一人ひとりにてはなか/\がまはりぬとて、久敷ひさしく地獄ぢごく堕居おちゐたりし浅草あさくさひとばゝ安達あだちはら黒塚婆くろづかばゝ堺町さかひてう笋婆たけのこばゝ其外そのほか娑婆しやばにてよくよめをいぢり継子まゝこにくみたる悪婆あくばゝどものつみ御赦免ごしやめんあり、三途川さんづがはばゝ加勢かせいいれ段々だん/\地獄ぢごくひろまりければ、かの山師共やましどもまた/\ねがひいだし、なにとぞ新地獄しんぢごくまち大家おほや成度なりたきとのねがひ、しかし餓鬼道がきだうぶん掃除代さうぢだいあがらされば、節句銭せつくせん二百文にひやくもんづゝに御定おさだめくだされたしねがひは、あるひしたぬくはさみ入口いれくち

てつぼうくるまうけおひ、かま新敷あたらしく仰付おほせつけられそろよりは、古地獄ふるぢごくにてそこのぬけたるを取集とりあつめ鋳懸ゐかけさせ、たけほる燈心たうしん蝋燭屋らうそくや切屑きりくづ御買上おかひあげになさるゝが至極しごく下直げぢき付候つきそろ少々せう/\ことにても地獄ぢごく年数ねんすう仮初かりそめにも百万劫ひやくまんこうなどゝ久々ひさ/\ことなれば、塵積ちりつもつ山師共やましどもはかりことまた三途川さんづがは古着ふるき一人ひとりにて仰付おほせつけられば、そのかはりには獄卒ごくそつ衆中しゆぢう樗蒲一ちよぼいちまけなされ、とらかはのふんどしをしち御置おほきなさるゝとも随分ずゐぶん利安りやすつかまつらん。あるとき惣地獄さうぢごくおんうるほひにも相成あひなりまをすべしと