お江戸のベストセラー

根南志具佐(ねなしぐさ)

原文(一之巻)

根南志具佐 一之巻03

▼開

の新地獄(しんぢごく)をこしらへて、岡場所(おかばしよ)地獄(ぢごく)と称(せう)し。 三途川(さんづがは)の婆(ばゝ)も一人(ひとり)にてはなか/\手(て)がまはり得(ゑ)ぬとて、久敷(ひさしく)地獄(ぢごく)に堕居(おちゐ)たりし浅草(あさくさ)の一(ひと)ッ屋(や)の婆(ばゝ)、安達(あだち)が原(はら)の黒塚婆(くろづかばゝ)、堺町(さかひてう)の笋婆(たけのこばゝ)、其外(そのほか)娑婆(しやば)にてよく嫁(よめ)をいぢり継子(まゝこ)を憎(にくみ)たる悪婆(あくばゝ)どもの罪(つみ)を御赦免(ごしやめん)あり、三途川(さんづがは)の婆(ばゝ)の加勢(かせい)に入(いれ)て段々(だん/\)地獄(ぢごく)も広(ひろ)まりければ、彼(かの)山師共(やましども)また/\願(ねがひ)を出(いだ)し、何(なに)とぞ新地獄(しんぢごく)町(まち)の大家(おほや)に成度(なりたき)との願(ねがひ)、しかし餓鬼道(がきだう)の分(ぶん)は掃除代(さうぢだい)が上(あが)らされば、節句銭(せつくせん)二百文(にひやくもん)づゝに御定(おさだめ)下(くだ)され度(たし)と願(ねがひ)は、或(あるひ)は舌(した)を抜(ぬく)鋏(はさみ)の入口(いれくち)、

鉄(てつ)の棒(ぼう)、火(ひ)の車(くるま)の請(うけ)おひ、釜(かま)を新敷(あたらしく)仰付(おほせつけ)られ候(そろ)よりは、古地獄(ふるぢごく)にて底(そこ)のぬけたるを取集(とりあつめ)て鋳懸(ゐかけ)させ、竹(たけ)の根(ね)を掘(ほる)燈心(たうしん)も蝋燭屋(らうそくや)の切屑(きりくづ)を御買上(おかひあげ)になさるゝが至極(しごく)下直(げぢき)に付候(つきそろ)。少々(せう/\)の事(こと)にても地獄(ぢごく)の年数(ねんすう)は仮初(かりそめ)にも百万劫(ひやくまんこう)などゝ久々(ひさ/\)の事(こと)なれば、塵積(ちりつもつ)て山師共(やましども)の謀(はかりこと)、又(また)は三途川(さんづがは)の古着(ふるき)を一人(ひとり)にて座(ざ)に仰付(おほせつけ)られば、其(その)かはりには獄卒(ごくそつ)衆中(しゆぢう)、樗蒲一(ちよぼいち)に御(お)まけなされ、虎(とら)の皮(かは)のふんどしを質(しち)に御置(おほき)なさるゝとも随分(ずゐぶん)利安(りやす)に仕(つかまつ)らん。佐(さ)ある時(とき)は惣地獄(さうぢごく)の御(おん)うるほひにも相成(あひなり)申(まをす)べしと